事故がなければ、思いもしなかったであろう絵本を出版するという夢。発売の2か月まえに描き終えた瞬間は、達成感と安堵でいっぱいだった。

「この本は事故後の4年間のすべてと言っていいくらい、僕の魂の作品なので、もう感無量です。描き終えたその日は、朝からの雨空がふと外を見たら青空へと変わり、きれいな二重の虹がかかっていました。“頑張った!お疲れさま!”と父に言われている気がしました。ただ正直、僕にとったら描き終えた時点でもう過去のことになっていました」

のどを切開し、人工呼吸器をつけていた。声が出せないため、五十音表を使い、意思を伝えようとしたが、うまくいかず言葉を飲み込むことも
のどを切開し、人工呼吸器をつけていた。声が出せないため、五十音表を使い、意思を伝えようとしたが、うまくいかず言葉を飲み込むことも
【写真】事故直後、のどを切開し人工呼吸器をつけていた滝川英治さん

生きることは想像&創造すること

 4年間の全てをかけたという絵本に込めた思いは、どういったものなのだろう。そこにはどんなメッセージを込めていたのだろうか。

絵本における内容的なメッセージは特にないんです。読者に対して、求めること、教えたいと思うこと、伝えたいことなど、押し付けがましい限定的なメッセージは何ひとつ考えていません。テーマ性とか教育的な見地を求めてしまうと、特に子供たちはそういう匂いをすぐに嗅ぎつけて、絵本から離れていってしまうと思うんです。

 絵本はあくまでも楽しいものであって、それ以上のことは必要ない。感覚、直感的に感じるもの、そのすべてを尊重したいですし、すべてが正解であるべき。子供が自分の感覚を信じ、子供の感覚が尊重される経験をすれば、後々つらいことや苦しいことがあっても、きっと乗り越えていけると思うんです」

 大変な経験をしてきたのだから、感じてほしいメッセージがあるのかと思っていたが、そうではないという。絵本もお芝居も芸術も、すべてのエンターテイメントは「想像と創造において自由で多様性の象徴になるべきもの」と考えているという。

 そんな中で人が「生きる」ということを考え続けた滝川さんが感じたのは「生きるのは存在することではなく創造すること」。

「それは、常に何か新しいこと、何ができるのかを追い求める姿勢。『想像』と『創造』のサイクルを繰り返すことで、人は『生きる』ことを実感できると思っています。それがスムーズにできる社会が僕の理想で、僕が考えるインクルーシブな社会は、個人の創造の可能性に対して、適切なエネルギーが供給される社会です」

 九死に一生を得て、生きること、自分が生かされた意味について人一倍考えてきた滝川さんが辿り着いた答えだった。

「特にその力が豊かな子どもは年をとって大人になっていくにつれて、見える色や感じる味が変わってきます。僕たち“障がい者”という、子ども達の概念の枠にはまらない存在から、何を感じるかなんて、それはさまざまで、ピュアでユーモアがあって、ときに残酷で、それが真実だと思います。

 こうなんだと伝えたり、教えることよりもまず、大切なのは自分自身が感じること。そして考えること。そして教わるのではなくて、ともに話し合うことが大切だと思います。ともにクリエイトできる『発想絵本』になってほしいなと思います」