最初は、専門外のテーマについて発言することにためらいがあったという。

「自分の専門分野に関してなら自信はあったんですが、外交から政治、社会保障、エネルギー、スポーツニュースなどについて“自分は何か価値あるコメントができるのだろうか”と思いました。自分が何を求められているのか、わからなかったんです」

 ほかの番組を見て自分が視聴者の立場になってみると、気づいたことがある。

“こういうことだよね”って一緒に理解していく補足的なコメントがありがたかったりすることもあります。“これいいね”“これ素晴らしいね”というような感情の共有も大切なこと。専門領域だけではなくても、そういった面で何か視聴者に届けられるものがあるんじゃないかな、と考えるようになりました」

 コメンテーターとして、常に心がけていることがある。

どんなニュースでも批判したり批評したりするのは一瞬ですが、長い時間をかけてそこにたどり着いた当事者がいるわけですよね。リスペクトを忘れずに臨むようにしています。世の中は本当に偶然の連続で、ささいなことで環境が変わって、場合によっては自分がその立場にいる可能性もある。さまざまな立場を想像して、寄り添う気持ちを忘れないようにしています」

声高に断言しないコメント

 大きな声で断言することで人気となるコメンテーターは多いが、石山の方法は異なる。

目立つ方というのは白黒はっきりするコメントをされたりして、アンチもいるけれど人気も強い印象です。うらやましいなと思う反面、自分はできないしやりたくないって思ったんですよね。ニュースには白黒つけられることってほとんどなくて、多くは曖昧なものだったり複雑なことが絡み合ってできている。単純にこれがいい、悪いとか言うようにはしたくないという気持ちがあります」

 さまざまな声に向き合うことで、今までは自分に共感してくれる層に対してしか発信していなかったと感じた。

批判的なコメントに接すると精神的につらいこともありました。でも、社会を変えたいというところに立ち戻ったときに“多くの人たちと接点を持った上で、どういうふうに社会をよくしていけるか”と考えるようになったんです。私が大事にしているのが“人類にもともと備わっている良心を諦めたくない”という信念。ニュースって、対立構造やヒエラルキーで語れるものがほとんどだと思います。うわべだけでとらえると、自分のコメントがさらに分断を煽ったり、人を傷つけたりすることになりかねないんです」

 石山は“意識でつながる拡張家族”という理念を掲げるシェアハウス『Cift(シフト)』の代表理事も務めている。

「血縁によらずにお互いの合意を経て“家族になりましょう”と、一緒に生活していくコミュニティーです。メンバーによって家族のとらえ方も違うんですけど、それぞれが家族ということを意識しながら接しています。人と支えあう社会を作っていくためには、常に人に差し出せる余白をひとりひとりが持っていることが大事だと思うんです。今は忙しくしてるんですけど、できるだけ時間を作って、与える幸せを感じることを心がけていますね」

 強い言葉で相手を論破しようとはしない。すべてを抱きしめて共に学んでいくことで、幸せをシェアできる共生社会の実現を目指す。