“尼さんってどんなかな?”って好奇心がある男は世の中にいっぱいいますよね。そんなのが言い寄ってくるんですよ

 ただ、出家後は「色恋の煩悩を見事に断つことができた」とも。出家する際「嘘」と「悪口」と「色恋」がよくないと言われ「色恋」だけをやめることにしたのだという。

 これはなかなか深い。彼女は現実の「色恋」を断つかわり、小説という「嘘」のなかでそれを愉しみ「悪口」は説法のなかに活かすことでカリスマとなったのだ。現実の「色恋」については出家までに味わった分で満足できたということかもしれない。

 最後の連載となった随筆のなかで、彼女はこう綴った。

《結局、人は、人を愛するために、愛されるために、この世に送り出されたのだと最期に信じる》

 これは本来、世の摂理だと思われるが、こと男女の愛欲に限れば、最近は淡泊なほうが好まれ、濃密なものは避けられる傾向がある。これから、若い人が彼女のように生きるのはむしろ困難なのではないか。

 そういう意味で、彼女の死は、人が愛欲に正直だった時代の終わりを象徴するようにも感じられるのだ。

 さて、極楽というものがもし存在するとして、あいにくそこにはまだ若い後輩たちはいない。そのかわり、年上のほうは大勢いるから、彼女は可愛がられ、少女のようにときめいていることだろう。そんな空想もしたくなるような、大往生である。

PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる)●アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)