京都人は裏表がある?
私は、撮影のために東京から京都に通っていた。京都人でもなければ、京都に根を下ろして活動していたわけでもなかったけど、裏方さんたちはとても可愛がってくれた。20歳のとき、京都で撮影をしている最中に父が亡くなると、みんなで慰めてくれたのを思い出す。
「京都人は裏表がある」なんてことがよく言われているけど、双方間に関係性が育まれれば、過剰なくらい親切にしてくれる素敵な人たちばかり。きちんと挨拶をすること、伝統を重んじること、そんな当たり前のことをきちんと行えば、京都の人たちは受け入れてくれる。
でも、京都人らしい言い回しをするのも事実。あるとき、私は京都の映画館に足を運んだ。京都で仕事があるときは、空いた時間に映画を見るのが日課になっていて、私にとって京都はそういう意味でも映画の街だった。
次の日、撮影所へ行くと、「眞奈美ちゃん、昨日映画館にいたでしょう」と裏方さんから声をかけられた。「どうして知っているんですか?」と言うと、「あんな大きな笑い声で笑う人は京都にはいないよ」と言われた(笑)。嫌みと受け取るか、愛情と受け取るかは、考え方次第。でも、私はそんな京都の“らしさ”がとても好きなのだ。
冨士眞奈美 ●ふじ・まなみ 静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。
〈構成/我妻弘崇〉