乳がん・肺がん・胃がん検診
女性なら気になる乳がんは、遺伝や生活習慣などによって発症することがわかっており、40歳以上を対象に、2年に1回、触診とマンモグラフィの受診をすることになっている。
マンモグラフィは乳房を薄く広げてエックス線撮影するが、20回に1回の割合で誤診が起こり、異常がないのに乳がんと診断されることがあるという。そうなると、乳房に針を刺して細胞を取り出す検査を受けさせられたり、手術や放射線治療、抗がん剤などを施されたりすることも。精神的なダメージも大きそうだ。
「乳がん検診によって総死亡率が下がったという複数のデータがありますが、調査対象のグループの分け方が明記されていなかったり、対象者に偏りがあったりと、いずれも信用性に欠けています。
信用できる調査に限って見てみると、『検診を受けたグループと受けなかったグループを比べたところ、検診に有効性は認められなかった』と結論づけられています」
岡田先生が受けなくていいがん検診の筆頭に挙げるのが、肺がん検診だ。
「チェコスロバキア(当時)では、肺がん検診を半年ごとに受けていた人のほうが、受けていない人よりも総死亡数が多いという、驚くべき結果が出ました。これも検診で被ばくを重ねた結果ではないかと考えられています」
もちろん検診で重篤な肺がんが見つかることもあるだろうが、それはレアケース。被ばくのリスクは全員に関わるので要注意なのだ。その肺がん検査よりも被ばく量が多いのが胃がん検診だ。
「胃は複雑な形をしているため、さまざまな方向から7~8枚撮影します。被ばくする放射線量は、胸部エックス線検査の実に6倍です」
胃がん患者は欧米では少なく、日本などのアジア諸国に目立つという。理由は塩分の多い食生活が影響しているとされ、岡田先生は、検診に頼るよりも食生活の改善をすすめる。
「過剰検査」でダメージも!大腸がん検診
では、エックス線撮影をしない大腸がん検診は、リスクが低い検診といえるのだろうか。
「大腸がん検診は、検診でがんによる死亡率は低下させることはできても、総死亡率を減らすほどの効果はないとされています」
つまり、がんそのもので死亡する人を減らすことはできても、がん以外の原因で死亡する人は減っていないということだ。岡田先生は、そのがん以外の原因が、過剰検査や過剰治療によって、引き起こされている可能性があることを問題視する。
大腸がんの検査では、検便により、目に見えない血液の成分が便に混じっていないか確認し、そこで異常が出ると、内視鏡検査となる。ところが英国の調査によると、この内視鏡検査を受けている最中に、腸に穴があいてしまうトラブルが少なくないことがわかった。検査により、脳出血や心筋梗塞などの発作を起こす人も、一定の割合で出てきているという。
「内視鏡の消毒が不十分で病気が感染してしまうこともあります。また、針を刺して検査をした場合、もしがん細胞があれば、針を刺したことでほかの部位に散らばってしまうリスクもあるのです」
デメリットも考えて自分で判断すべし
とはいえ1年に1回、義務として受けるなら極力活用したいもの。岡田先生は、血圧、血糖値、コレステロール値に留意することをすすめる。
「特に血圧は健康寿命に直結します。高血圧と言われたらぜひ運動や減塩で上手にコントロールしてください」
では、任意のがん検診や人間ドックは、本当に受けなくていいのだろうか。
「基本的には必要ないと私は思います。ただし、喫煙者は肺がん検診は定期的に受診したほうがいいです。リスクがとても高いですから。でもその前に禁煙をおすすめしますが」と岡田先生は、健診や検診を熱心に受けるより生活習慣の見直しを、と強調する。
「私も勤労者なので、年1回の健診を仕方なく受けていますが、それ以外は一切受けていませんし、家族にも受けさせていません。自分が受けようとしている健診や検診は本当に必要か、受診するメリットとデメリットは何か、しっかりと考えることが大事だと思います」
エックス線を使った検査と被ばく量
検査法 放射線被ばく量(mSv)
胸部エックス線検査(1枚) 0.1
乳がん検診(マンモグラフィ) 0.1~1.8
日常生活で受ける年間放射線量 2
内臓脂肪測定CT 3~10
心臓(冠動脈)CT 12~42
頭部CT 2~106
食道と胃のバリウム検査 0.6~100
大腸のバリウム検査 8~300
※岡田正彦『医者の私が、がん検診を受けない9つの理由』(三五館)をもとに作成
教えてくれた人……岡田正彦先生 ●新潟大学名誉教授。医学博士。専門は予防医療学で、遺伝子や細胞を対象とした基礎実験からビッグデータの統計解析まで幅広い研究を行っている。『がん検診の大罪』ほか著書多数。
〈取材・文/江頭紀子〉