4回転半の成功がカギ

 見事な作戦で五輪2連覇を果たした羽生。佐野さんは、北京五輪での作戦にも期待を寄せているという。

「羽生選手が金メダルを獲得するには、4回転半の成功がかなり重要です」

 それは、彼自身の演技のためだけではない。

「羽生選手が4回転半を成功させたというニュースが試合会場で流れたときに、それを聞いたネイサン選手が何を感じるかですよね」

 いったいどういうことか。

「北京五輪には世界トップクラスの審判が集まりますが、4回転半は誰も成功したことのないジャンプなので、どのような点数をつけるかは想像がつかないわけです。それだけ、4回転半を成功させるというのは、とんでもない話。

 それを試合でやって、ほかもノーミスでやった人の点数がどうなるのかなんて、計り知れないでしょう。センセーショナルであり、すごいことが世の中に起こったとき、人間は動揺します。そこが、羽生選手の狙いなのです

 技術の戦いだけではなく、高度な“頭脳戦”が展開されるというのだ。では、ネイサンが先の滑走だった場合は?

「男子は、8日にショートプログラムが行われて、10日に行われるフリープログラムまで1日空きますが、その1日で練習をします。

 おそらく、2人の練習は同じ時間帯に行われるはず。そのときに羽生選手がバシッと4回転半を決めたら、それを見たネイサン選手がどう思うか。そこからもう、プレッシャーをかけているわけです

 チャンスはまだある。

「滑走順によって分けられたグループごとに、ウオーミングアップとして滑走直前に行われる“6分間練習”です。

 そこで、ネイサン選手の目の前で4回転半を当然のように決めれば、彼が動揺することは間違いありません。そうとうなプレッシャーを与えることができるでしょうね」(前出・スポーツ紙記者)

 相手を動揺させるための“頭脳”が、2人の勝負の行方を握っている。

いちばん使うのは、身体ではなく頭かもしれません。羽生選手もネイサン選手も、精神的にはすごく強いはず。

 そんな中で、動揺したら負け、逆にいかに相手を動揺させるかという駆け引きはあると思います」(佐野さん)

 北京五輪で4回転半を成功させて3連覇という2つの夢を叶えるべく、羽生は一直線に向かう──。