トンガの噴火はそこまで巨大な規模ではなかったが、同規模のピナツボ火山噴火のように気候にも影響があるのか。
「噴出されたマグマと火山灰の量によります。寒冷化のメカニズムは火山灰が上空30キロまで上昇しても大部分が大地に降り積もります。ですが、粒子の非常に細かいものが成層圏まで到達し、貿易風に乗って地球全域を回り、数年~10年ほど大気中に滞留することになる。それが太陽の光を遮り、地面が温まらなくなり、寒冷化が起きます」
ピナツボ火山の噴火の際は世界全体の平均気温が0・5度低下。日本では噴火から2年後の1993年に1~2度下がり、記録的な冷夏となった。
「ピナツボ火山の噴火と同じような状況なので寒冷化が起きる可能性はあります。ただ、ピナツボ火山は北半球で起きた噴火。今回は南半球で発生した噴火なので北半球にどの程度の影響があるかは今後、観測してみないとわからない」
そして環境や人的な損害だけでなく、経済活動を左右する可能性も指摘されている。
「CO2排出により温暖化が進み、脱炭素やカーボンニュートラルなどが叫ばれておりますが、実は人類にとって怖いのは温暖化よりも寒冷化。農作物が育たなくなるため、食料危機に陥り、大飢饉が起きる。そうすると人類は地球を暖めようと方向転換してくる可能性も出てくる」
この噴火が地球に与える影響は未知数。だが、日本でも大規模な噴火が起こる可能性がある。鎌田名誉教授は日本経済を大きく揺るがすのは富士山の噴火だと指摘する。
鬼界カルデラの噴火で絶滅
富士山ではカルデラ噴火は起きないというが、それでも大噴火を起こすと火山灰は東に流れ、首都圏に降り積もる。火山灰でライフラインが止まり、さらに上空に滞留する火山灰により航空機の飛行がストップすることも考えられる。日本経済や首都機能はマヒ。約2兆5000億円の経済的損失が示唆されている。
いつ噴火するのか不安に思う人もいるかもしれないが、富士山噴火は前兆をとらえることが可能だという。
「海底火山の噴火の前兆をとらえるのが難しいのは観測機器を設置できないからです。富士山のように陸上ならさまざまな計器が設置できるので異常を事前に察知しやすい。富士山の場合は周囲に何十か所も計器が設置され、24時間監視されています。噴火前1か月から数週間前には何らかの前兆が出るので避難や対策ができます」
ほかにも日本の活火山のうち50個の火山でも同様に常時観測されており、異変を観測すれば住民に避難をうながし、最大限人的被害を防ぐことに努めている。
さらに同時に日本近海の海底火山にも注意をしたい。実は日本近海には海底火山が無数に存在しており、現在、活火山に指定されている111個のうち3割が海底にある。
「鹿児島県の沖合に『鬼界カルデラ』というカルデラがあります。7300年前に噴火した場所なのですが、このとき火砕流は南九州の陸地にまで到達、そこに住んでいた縄文人が絶滅しました。海底火山の噴火でも場所によっては大災害になるケースもある」
特に九州でカルデラ噴火が起きた場合、最悪の事態に発展するおそれがある。九州には前述の『阿蘇カルデラ』や『鬼界カルデラ』のほか、鹿児島湾内にも『姶良カルデラ』といった3つのカルデラがある。そこが噴火すると火砕流が大地を焼き尽くすだけでなく、火山灰は東に流れる。かつて起きたカルデラ噴火では火山灰が北海道で10センチ、関西で50センチは積もったという記録がある。そうなると日本全体が灰に覆われ、日本人は住む場所を失い、地球全体も寒冷化を引き起こす。降灰と寒冷化による寒さ、そして飢餓で命を落とす人が出てくるかもしれない。