孤独感を抱えている自分たちは似ている
その後も、杉さんが自分の畑で収穫した果物を菜穂子さんに贈り、菜穂子さんからお手紙をいただくなど、交流が続いた。そして、完パケ音源が完成したあと、杉さんは菜穂子さんと待望の対面を果たす。
「ご両親から『男性が来ると緊張してしゃべらなくなるかもしれない』と言われていたので、威圧感を出さないように心がけました。でも、会った途端、彼女は打ち解けてくれ、彼女が伝える言葉を読み取るボランティアの通訳の方を介して、会話が弾みました」
なかでも印象的だった話が2つあった。
「1つは、まだ両親にも話したことがないという『自分の中には悪い自分がいて、悪いことをしたいと思っていた』という告白でした。
『私たちは神様ではないし、人間なのだからそういう感情を持つのは当たり前のことだよ。ありのままの自分をすべて出せば、より輝く詩が出てくると思うよ。これからは思うがままにいろんな自分を出せばいいと思う』と伝えると、菜穂ちゃんは『肩の荷が下りた』と言うんです。
これまで両親や周囲の期待に応えようとして、『いい子でいなくてはいけない』というプレッシャーに苦しんでいたのでしょう」
もう1つは菜穂子さんと杉さんが似ているという話だ。
「菜穂ちゃんは『杉さんは私と同じ孤独な人間だ』と言うんです。自分の思ったことをすぐに受け取ってもらえず、孤独を感じることが多かったと。そして僕の中にもそれを見たのでしょう。
実は以前、京都の大覚寺の門跡から書を贈りたいと申し出があったのですが、その書にも『断崖絶壁に座する孤独の人間に見えた』と書かれていました。菜穂ちゃんは感性が豊かなので、会ったり、少し話しただけで、その人の本質を見抜く力があるのでしょうね」
また、杉さん自身も菜穂子さんに似ている部分を感じた。
「以前、僕の後援会長でもあった福田赳夫元総理大臣に『君は純だな。よくそれで芸能界を生きてこられたな』と言われたことがあります。今の上皇后さまに晩さん会でお会いしたときには、『筋金入りのお方ね』と声をかけていただきました。
菜穂ちゃんとは純な部分や、理解されづらい部分が似ているんです。僕は長く福祉活動を続けていますが、『政治家になるための布石では?』とか『売名行為だ』と言われることが多々あります。
でも私財の数十億円を使って売名するなら、そのお金で自分のレコードを全部買ったほうが話が早い。ボランティアやチャリティーは、生易しいことではありません。でも日本では善行を行う人へのジェラシーがあり、ボランティアをためらう人も出てきてしまうのが残念です」