聖子は「トーチャン」と呼んでいた
聖子が惹かれたのも、こういうところだった。郷ひろみとの関係がギクシャクするなか、映画『カリブ・愛のシンフォニー』で正輝と共演。
自分のことを「イモ」扱いしてからかってくるひと回り年上の男を、最初は失礼だと感じたが、これは気を引くための正輝の作戦だったようだ。
やがて、ふたりはメキシコロケ中の食中毒騒動で急接近。倒れた聖子を正輝がつきっきりで看病した話が有名だが、それだけではない。
大スターだから助けてもらえるという特殊な立場を指摘し「人間として自立していない」と諭したことが、聖子の心をとらえたという。つまり、父性的魅力、いわば「オヤジ力」が彼女の結婚の決め手となったのだ。
実際、当時は正輝のことを「トーチャン」と呼んでいたらしい。
結婚後、聖子は米国人俳優、ジェフ・ニコルスに不倫についての暴露本『真実の愛』を書かれるなどしたが、正輝は大人の態度でやり過ごした。
『真実の愛』には、正輝がふたりの不倫を疑いつつも「ビールか何かやりましょうよ」とジェフを気さくにもてなした話が出てくる。お互いを束縛しない関係だったからこそ、恋多き女・聖子も12年間、正輝と夫婦でいられたのだろう。
正輝は実の娘にとっても、頼りになる存在だった。彼女と元夫・村田充とのハワイ挙式にも、聖子は不参加の中、オフを取って参加していた。
「元気ですよ!」発言はまさに、俳優として人間としての年季が感じられる見事な対応だったといえる。
口は騒動も生むが、騒動を収めることもできるのだ。
PROFILE●宝泉薫(ほうせん・かおる)●アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)