「受け取らせようというのなら、手続きは進められい」
前出の男性Aさんは失職を機に生活困窮し、2021年7月、杉並区荻窪福祉事務所に生活保護の申請をしに行った。地方に住む両親は80代と高齢で、しかも二人ともに持病を抱えているので心配をかけたくない。なにしろ老々介護状態の両親は、自分たちの生活でいっぱいいっぱいだ。きょうだいも自分を援助する見込みはない。その旨を記入した申出書を持参した。
Aさんは生活保護の申請書を記入した後、「これもお願いします」と相談係B氏に扶養照会拒否の「申出書」と「申出書添付シート」を差し出した。B氏はちょっと戸惑った声で「ちょっとお待ちください」と一旦、相談室を出ていき、しばらくして戻ってきた。
B氏「これは受け取ることができないので、お持ち帰りください」
Aさん「なぜですか?この書類は法的にも認められた意思表示で、受け取ることでそちらが困ることはないと思うんだけど……。公共の福祉事務所で、受け取りたくないとかじゃないでしょ?」
B氏「受け取っちゃいけないと言われているので受け取れません」
Aさん「父親は何度も手術しているし、母親は要介護の状態なんですよ。今、コロナ禍で生活困窮者が増えているじゃないですか。命が掛かっているときに扶養照会がハードルになって生活保護を受けない人たちが大勢いるって、俺テレビで見ましたよ。自分もそうだなーって思う。(略)お願いだから(申出書)受け取るだけ受け取って。厚労省からも通知が出ているでしょ」
B氏「これを受け取らなきゃいけないという法律はありません。どうしても受け取らせようというのなら、手続きは進められません。保護申請を進めたいなら、申出書はお持ち帰りください。どうしますか? どうしても受け取るわけにはいかないので。保護申請をするなとは私たちは言ってないですからね」
Aさん「口で言うだけでは言った言わないになるからイヤなんで。あとでやっぱりダメだっていうなら仕方ないけど、自分の意思を形に残したいから受け取ってくださいよ」
B氏「申請してくださいといってるのに、しないのはそちらの自由です。こちらは申請するなとは言っていないですから。その書類(申出書)は受け取れないと言っているだけです」
Aさん「なんで受け取ることもできないの」
B氏「私もケースワーカーも、お話やご事情は伺いましたから意思表示は受けました。こっちで記録は残していますから、その書類は要らないです。必要書類以外は受け取れません」
途中から同席したケースワーカーのC氏も無表情で、ひたすら「できないものはできない」「ダメです」「受け取りません」と機械的に答えるのみであった。3時間交渉を続けたが、結局、「申出書」と「添付シート」は受け取ってもらえなかった。
まるで公務員による区民イジメ
ここからがすごい。
必死に頼み続けるAさんに業を煮やしたのか、相談係B氏は申請関連の書類を全部机の上に並べて、「これ以上、お話することはないので。御用があったらお呼びください」と言い残して、ケースワーカーC氏とともに面談室を退出してしまったのだ。
面談室にたった一人で残され、「申出書」の提出をあきらめないと生活保護の申請ができない状況に追い込まれたAさんは、つくろい東京ファンドの事務所に電話をしたのだが、慙愧(ざんき)に堪えないことに、その日は誰も事務所にいなかった。
生活保護の申請ができなければ、明日からの生活に困ってしまう。万策尽き果てたAさんは、背に腹は代えられぬと観念し、「申出書はひっこめます」と大きな声で職員を呼んだ。すると職員が戻り、面談が再開され、申請手続きが完了した。
「本当に屈辱的でした」とA氏は語った。
「ただでお金もらってるわけじゃないんだから」
申請が完了し、数日後にケースワーカーのC氏が家庭訪問に来た際などにも、Aさんは年老いた両親への扶養照会を止めてほしいと訴え続けたが、聞き入れてはもらえない。
2か月後、担当がC氏から地区担当D氏に替わる。D氏から電話で「扶養照会はすることになった」と連絡があり、そこでもなお、Aさんは止めてくれるよう頼んだ。
その月の支給日に福祉事務所を訪問した際、再びD氏に「どうしても止められないのか」と聞いたが、D氏は「扶養照会はどうしてもやらなくてはならない。やるのは違法じゃない。ただでお金もらっているわけじゃないんだから」と発言。この発言にショックを受けたAさんが抗議をしたところ、D氏は謝罪した。
そして11月ころ、地方在住の両親に照会の郵便が送付された。
息子の援助ができない両親は、息子を案じながらも白紙の扶養照会通知を福祉事務所に送り返した。それなのにAさんは、今に至ってもなおD氏から「親から援助は受けられないのか?」と聞かれ続けている。