出る限りは絶対に面白くしたい
シリアスからコメディーまで出演作のジャンルは広く、軽妙な演技で存在感を大いに放つ。自身が魅力を感じる役は?と聞いてみると、
「そういうのはもうないです。若いころはイキがって“殺人犯とか悪役しかやりたくねぇよ”なんてほざいてたこともあリましたけど“こういう役をやりたい”と言ってる限り偏っちゃう。
30歳を過ぎたころから“何でもやりますよ”というスタンスになって、そうしたら思いもかけなかったような役がくるようになりました。そのほうが面白いですね。マイホームパパ役なんてのも結構楽しかったりするし(笑)」
マイホームパパに銀行員、女装家の教師、果ては象やカワウソ(!)まで、これまで演じてきた役は実に幅広い。その演技論は、独特のものだ。
「どんな役も演じるうえではあまり変わらないです。だいたい象がどんな気持ちでしゃべっているかなんてわからないから、役作りなんてものはない。結局のところ象やカワウソも擬人化しているわけだから、そいつの中できちんと理屈が通っていればいい。重要なのはどこに納得するかということ」
作品を選ぶ基準は「スケジュールが合うかどうか」で、どんな役もイヤとは言わず、オファーがあれば引き受けるという。役者としてのキャパがなければ到底なしえないスタンスだ。
「ただ出る限りは絶対に面白くしたいという気持ちがあるから、どんな台本でも面白くする努力はします。大切にしているのは、監督や相手役とのコミュニケーション。それはおいらがもともと舞台出身だからというのもあります。
舞台の場合は何か月かの稽古の中で、相手役がこうきたから自分はこういこうと芝居を作っていく作業になる。でも映像は、撮影開始の段階で台本が最後までできていないこともあるわけです。初めは戸惑いました(笑)」
無類の酒好きでも知られ、飲酒は毎日欠かさずに仕事が終われば即晩酌タイム。
「早く終わって早くお酒が飲みたいから、現場では監督の言うことをひたすら聞きます。監督は自身の思い描く作品を作ろうとしているわけで、それにみんながきちんと倣えば早く終わるはずだから(笑)」
しかし今のご時世は自粛続きで、酒飲みにとってはかなりつらいものがあるのでは?
「最近はもっぱら家で、ニュースを見ながら飲んでます。おいらは飲めさえすればどこでもいい。会食だとか仲間と飲みに行くのも全然興味がないから何も困らないんです。飲みに行っていたときもカウンターにひとりで座って飲んでるだけ。そうすると近くのテーブルで飲んでいる人たちが話す、いろいろな情報が耳に入ってくるわけです」
そこでの時間は役者として大切な糧にもなるという。
「役者仲間やスタッフと飲みに行くとどうしても作品の話になるじゃないですか。それより“社長の考え方が本当に腹立つんだよ”なんて話を聞いてるほうが面白い。役者は普段台本を読んで役の気持ちを想像しているだけで、実際のところはわからない。こういうことを考えているんだなとか、いい取材になります」