現実的には啓発などによって加害者の手口を知ることが性暴力の早期発見、早期介入につながる。
「加害者の多くは、教育熱心で子どもに慕われていることが多いんです。というのも、彼らの手口の特徴に相手と関係を構築して手なずけてから犯行に及ぶ『グルーミング』というものがあります。
被害者に何度もアプローチして、悩みを聞き、コントロールしやすいように関係性を築き、加害行為に及ぶのもそのひとつ。最近は、オンラインゲームやSNSで相談に乗って関係性を深めてから、裸の画像を送らせたり、実際に会って性加害を行うケースも増えている。彼らが徹底して子どもに寄り添う姿勢は、プロのカウンセラーも驚くほどです」
特に親との折り合いが悪く「自分は大切にされていない」など自己肯定感が低い子どもは、加害者の格好のターゲットになってしまう。
「さらに子どもたちの性行為への知識の乏しさや判断力の脆弱さに付け込んで、その関係性が『恋愛』で、当人も同意している、と思わせることもありえます。実際に中学生時代にグルーミングをされて、性関係を持った女性が成人になって性暴力だったと気づいて訴訟を起こした例もあります。真の同意とは、対等な関係を前提にしたもの。人生経験の少ない子どもと大人は対等とはいえません」
小児性愛者にとっては、子どもと接すること自体が再犯の引き金となることがわかった。しかし新しい法律では、懲戒免職となった教員が再び教壇に立つ可能性をゼロとは明記していない。なぜいっそ禁止にできないのか?
そんな率直な疑問を前出の宮路議員にぶつけてみた。
「教員による性暴力の問題は国会も問題視しています。そしてわいせつ教員を再び教壇に戻すな、という心情はもっともです。
一方、日本の法制度は、罪を犯した人であってもいずれ更生できるということを前提につくられています。刑法では、例えば殺人罪などの重罪を犯して刑に処せられても、その刑の執行後10年で刑が消滅します。
殺人を犯しても一定期間がたてば教育現場に戻ることが可能なのにわいせつ行為では戻れないのはどうか。また憲法で定められた『職業選択の自由』との兼ね合いも無視できない。そういった法の整合性や量刑のバランスを調整したうえで制定され、施行されたのが『わいせつ教員対策法』なんです」
審査は厳格になり、クリアはほとんどない
今後行われる各教育委員会が各専門家とつくる『教員免許状再授与審査会』での審査はかなり厳格、と宮路議員。
「『今後、再犯の可能性がない』と、“ないこと”を証明するのは至難の業。いわば悪魔の証明です。現実的にこの基準をクリアして教員免許を再交付される人は、ほとんどいないと考えています。
また文科省は、わいせつ行為をした教員の情報を共有できる全国共通のデータベースの整備も進めています。参考としているのはイギリスのDBS(Disclosure and Barring Service略)という制度。
イギリスでは、子どもに接する職業に就くときは、過去に性犯罪歴がないことを証明する書類を役所からもらって事業者に提出することが必要なんです。政府もこども家庭庁の目玉政策として、性犯罪の加害者が保育や教育の仕事に就けないようにする『無犯罪証明書』制度の導入の検討に入っています」
ただこれは、あくまでも国家資格である教員免許の話。
「フリースクールや家庭教師、塾など民間の機関に潜り込んでしまえばその限りではない。引き続き議論していく必要があります」(宮路議員)
前出の斉藤さんは語る。
「教員からの性暴力の被害に遭った子どもは、その後も長期間にわたってトラウマに悩むケースも少なくありません」
もしも子どもに性的被害を打ち明けられたら、大人は、どのように対応すればよいか。
「まずは否定せず話を聞いてください。相談された大人はまずは“あなたはなにも悪くない”ときちんと伝えること。くれぐれも“そんなことがあるわけないじゃない”“あなたにも隙があったんでしょ?”などとは絶対に言わないでください。
また男女ともに幼少期のうちから“水着を着ていて隠れている部分(プライベートゾーン)を他人に見せたり、触らせたりしてはいけない。もし触られたらイヤとはっきり言ってよいし、周りの大人に相談するんだよ”とわかりやすい形で繰り返し教えることも大切です」
もうすぐ新学期が始まる。子どもを被害者にも、傍観者にも、そして加害者にもさせないために、大人が学び、意識をアップデートしていくべきことは実に多いはずだ。
お話を聞いたのは
●衆議院議員 宮路拓馬さん
自由民主党、衆議院議員。2021年鹿児島第1区から出馬し、当選。3期目。内閣府大臣政務官。大学卒業後、総務省に入省、2014年より現職。性暴力撲滅に向けた取り組みなどを積極的に行う。「性暴力のない社会を目指す議員連盟」(事務局次長)などを担う。
●ジャーナリスト 渋井哲也さん
ノンフィクション作家。インターネット、サブカルチャー、援助交際、自殺、生きづらさなどをテーマに取材、執筆を行うほか、大学でも教える。著書に『ルポ平成ネット犯罪』(ちくま新書)、『学校が子どもを殺すとき』(論創社)、1月18日に『ルポ 座間9人殺害事件』(光文社新書)を出版した。
●精神保健福祉士・社会福祉士 斉藤章佳さん
大船榎本クリニックにソーシャルワーカーとして長年勤務、さまざまな依存症問題に携わる。著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病』(ブックマン社)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)などがある。