正義中毒は昔からあったけれど

『正義中毒』──脳科学者の中野信子さんは自著『人は、なぜ他人を許せないのか?』のなかで、こう記している。

《正義中毒とは「自分が絶対に正しい」と思い込み、自分の考えに反する他人の言動に対し、“許せない”という感情が湧き上がり、正義とはいえ過剰に相手に攻撃的な言葉を浴びせ、叩き潰そうとすることを脳科学的に表現した言葉です(中略)人の脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています》

 ツイッターやSNSでリアルタイムに怒りの共有をできることになり、自分の怒りに“いいね”が瞬時につく。それが快感に繋がっているという。

「トンプクさんはまさに“正義中毒”ですね。自分の中にある怒りを関係のない芸能人にぶつける。正義感が前提だから罪悪感も持たない」

 とは'90年代からインターネット上の人々を取材しているジャーナリストの渋井哲也さん。「ネット上では昔から正義中毒が見られる」

 と言う。

以前は芸能ニュースに食いつく人はインターネットの利用者の主流ではありませんでした。もっとマニアックなことで議論をしていた人が多かった。それと社会ニュースなどで正義感を暴れさせていた利用者が多かったですね。いじめ事件や未成年の犯罪が起きた時に加害者を晒す行為などは昔もありましたから。

 ただ、芸能人の不倫に対する“正義感”はやはりツイッターなどリアルタイムで怒りが反映されるツールができた'10年代からだと感じます。“正義感”を振り回す人が増えたというよりも、見つけやすくなったと言うことだと思います」(渋井さん、以下同)

 今回取材したトンプクさんは特定を恐れ、匿名にこだわった。正しいことをしているのならばもっと堂々としていればいい気もするが。

「日常生活とネットでのキャラクターは別なものとして生きている人は多い。匿名性を利用することで怒りのハードルも低くなり、“正義感”を爆発させやすい」

 侮辱罪が厳罰化されていくが、それは「抑止にならなない」と渋井さん。

「韓国でも刑法を強化しましたが、ネットでの“正義感”は拡大していっています。日本も変わらないんじゃないでしょうか」

 今日この瞬間もインターネット上では“正義感暴れ”している人々が後を絶たないーー。