梨園でも強い存在感を示す白鸚が、これまで選ばれなかったのはなぜなのか。

「人間国宝に選ばれる基準に“1つの分野を極めた人物”というものがあるんです。白鸚さんはミュージカルや現代劇といった伝統芸能以外の分野でも幅広く活躍されていましたから、相性がよくないのかもしれません。とはいえ、父と弟が人間国宝に選ばれている以上、気にしていないといえば嘘になるでしょう」(同・スポーツ紙記者)

 認定された場合の影響力は、そうとうに大きいようだ。

公演の際に“人間国宝”と銘打つだけでも、興行にプラスになります。それに、頭領が認められれば、その一門の弟子たちにも箔がつきますからね。人間国宝は単なる個人の名誉だけでなく、彼に関わる人全員の願いなんです」(石川氏)

「親子3人で人間国宝」の実現度

 2012年に玉三郎が、歌舞伎女形として人間国宝に認定された際は、インタビューでこのように語っている。

《自分にふさわしいものではないと思いました。が、後輩のために受けてほしいと言っていただき、後進の指導と歌舞伎の将来のためには、お引き受けせざるを得ない》

 白鸚に寄せられる親子3人で人間国宝という期待。その実現度はどれほどのものなのか。歌舞伎評論家の中村達史氏に話を聞くと、

「白鸚さんは、現代劇やミュージカルなどと歌舞伎をあまり区別せずに演じているように見えます。どちらも役にスッと入って、自然に湧き上がってくるものを表現するという芸風です。結果的に白鸚さんのそういったスタイルは、歌舞伎の心理描写を一歩前に進めたと考えています。そのような当代随一の演技力の高さを踏まえると人間国宝はもちろんですが、 “文化勲章”のほうがよりふさわしいのかもしれません」

 文化勲章は文化の発展や向上にめざましい功績をあげた者に授与され、人間国宝よりも上位に位置する。役者への勲章としては最高位にあたる。

「こちらは父親の初代・白鸚さんだけでなく、祖父の初代・中村吉右衛門さんも受章した縁があります。人間国宝のように、伝統芸能に専念していなければいけないということはありませんから、歌舞伎の枠を超えて活躍した白鸚さんなら、受章の可能性は十分にあると思います」(中村氏)

 長い年月をかけて進んできた芸の道が、大きな栄誉でたたえられる日もそう遠くないのかもしれない。