“実刑にしてください”アピール
起訴された3つの罪を裁判所が認めたとき、どの程度の罰則を受けることになるのだろうか。取り調べの現場では、検事を脅してくるようなことはよくあるのだろうか。
元東京高検検事で元衆院議員の若狭勝弁護士に話を聞いた。
「取り調べ中、暴言を吐く被疑者はいることはいます。そんなにしょっちゅうではなく、私が30年近く検事をやったなかで数件ぐらいですね。同僚には椅子を投げつけられた検事もいました」(若狭弁護士)
取り調べを始めるとき、被疑者は手錠をはずされフリーハンドになる。もっとも、腰ヒモはつけたままで、ヒモの先を同行してきた警察官がうしろで握っているため暴れ続けることはできないという。
若狭弁護士は、
「ただ、検察官に暴言を吐いて脅したということで公務執行妨害罪で起訴されるケースはほとんどないと思います」
と異例であることを指摘し、その狙いをこうみる。
「反省の色がみられず、検察側は再犯のおそれが大きいと訴えたいのでしょう。報道で知る限り、カッとなりやすい激情犯という印象があります。検察官を前にしても暴言を吐いているのだから、拘束を解かれ社会に出たとき、一般人に対して何をするかわからないとの懸念を抱いているのではないか。犯行時は感情的に殴ったり蹴ったりした被疑者でも、検察官の前では普通は興奮が冷めて落ち着いているものです。検事に暴言を吐いたって、いいことは何もないんですから」(若狭弁護士)
刑法に定められた傷害罪の罰則は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金。強要罪は3年以下の懲役。公務執行妨害罪は3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金となっている。
有罪認定されたとき、どの程度の罰則になるのだろうか。
「まず、被害者が負ったとする全治約6か月のケガは程度として重い部類に入ります。これだけでも検察側の求刑が懲役2年を下回ることはないと思います。3つの罪で起訴された場合の罰則は、単純に1+1+1にはならないものの重い方向にいくのは確か。検察は強要罪と公務執行妨害罪を加味して懲役3年半から4年程度を求刑し、実刑判決をとりたいのでしょう」(若狭弁護士)
懲役3年以下の判決言い渡しでは執行猶予がつくことがある。
「検察はそれを上回る求刑をすることで、裁判官に“これは実刑判決にしてくださいよ”とアピールするんです」(同)
公務執行妨害罪に加えて、公共交通機関でマナー違反を指摘した高校生に対し、逆ギレしてひどい暴力を振るった罪は法廷でこれから問われる。そこでは、入れ墨の威力も、恫喝めいた言動も通用しない。