何度も嫌いになり、 何度も好きになった芝居

 甘利田にとっての給食のように、市原が心の底から愛しているものを尋ねてみると、

「よくも悪くもやっぱり芝居の世界ですね」

 スカウトされたのは11歳。映画『リリイ・シュシュのすべて』( '01年)で鮮烈な主演デビューを飾ったのは14歳のとき。ちょうど神野ゴウくらいの年齢だと振り返る。

「若いころはやっぱり、プレッシャーや圧に負けることもあって。感情が商売道具であるがゆえに、自分がわからなくなってしまったり。部屋の隅っこでひざを抱えて泣いたり、吐いてしまうこともありました。改めて考えると、人生の約3分の2は、役として人の人生を生きていると思うんです。ほかのことを考えてしまうとその役に対して失礼になるから、プライベートでもどこかでずっと役のことを考えていて」

 それが寂しくなるときもあるという。

「役者は、ちょっと特殊な職業でもあると思うんです。何度も嫌いになって、何度も好きになって……。もう、好きなのか嫌いなのかよくわからない領域に来ていますが(笑)、何より芝居に助けられている面もあって。結局はずっと現場にしがみついている。やっぱり芝居の魅力に取り憑かれてしまった人間なので、だからもう、死ぬまで現場で芝居と向き合っていたいと思っています」

 演じ続けることで、本当にいろんなことを感じさせてもらえると感慨深げ。

ファンの方から“余命わずかですが、隼人くんの作品を見ると頑張れます”“手術前で怖いんですが、力をください”という言葉をもらうこともあって。いろんな思いで見てくださる方がいるからこそ、改めて自分のやるべきこと、担う居場所、努力すべきポイントを教えてもらえる。だから、僕にとっては芝居なんです

 心のうちをここまで語ってくれる俳優はなかなかいない。カメラが回っていようがいまいが、俳優・市原隼人はいつだって全身全霊だ。

忘れられない先生は?

「どの先生も、みんな愛情をもってくださったと感じています。たくさん怒られて、たくさん褒めていただきました(笑)」 

 ぶっちゃけ、けっこうやんちゃだった?

そうですね(笑)。トム・ソーヤみたいに、とりあえず冒険に出たいという探求心と好奇心の塊でしたから。教師にとって印象的な生徒だったかはわかりませんが、僕は本当に手を焼く子どもだったと思うので……いい印象だといいんですが(笑)


衣装協力/73r