狭山市役所の職員が罹患した場合は?
これだけ全国的にコロナ感染が拡大しているのだから、狭山市役所の職員だって罹患しているはずだ。その場合、何日間くらい休んでいるのだろうか。保健所の指示や判断が基準にならないのだとしたら、いったい何を基準にしているのか。厚生労働省とも、埼玉県とも、保健所とも異なる独自の基準があるのだろうか。また、その独自ルールは自治体に許されるのか。
5月2日、狭山市役所の福祉課をAさんと訪ねた筆者は、これらの言い訳の数々に目を丸くしていたのだが、「では、ほかの自治体はどうしているのか、私たちも学びたい」と査察指導員が言った言葉に、顎がカウンターに落ちそうになった。
「コロナ禍が始まって2年経った今言う言葉ですか?」と思わず聞かずにはいられなかった。どうするべきだったか。あまりにも方法がたくさんあって、教えるのもバカバカしいほどだ。
そんなにクレームが怖いなら、感染がわかった段階で振り込みの手続きをすればいい。あるいは、2月4日にそうしたように、外で待っていてもらって職員が外に出て来て保護費を渡せばいいのではなかったのか。それ以前に、すべての来所者の不安を取り除くような努力をし、差別、偏見を生まないような環境作りを工夫することはできなかったのだろうか。
そもそも、Aさんが生活保護の相談をした去年の10月には、「もうコロナも怖い病気じゃなくなったから、働けるんじゃないですか?」と追い返そうとしたのも、同じ狭山市の別の職員だ。
Aさんはこの「陰性証明」以外にも、これまでに嫌がらせとしか思えないさまざまな仕打ちを受けてきた。たくさんありすぎるので、要約してリストアップしたい。
(1)「生活保護は最後の砦なので、あなたは受けることができません」
家を失くし、生活困窮して福祉事務所に助けを求めたAさんに職員が言った意味不明な言葉だ。「あなたは受けることができません」のあとに、「もうコロナも怖い病気じゃなくなったから、働けるんじゃないですか?」と言い放ったという。水際作戦であり、申請権の侵害である。その後、支援者が電話を入れると「勘違いしてました!申請できます」といきなり逆転したのだ。
(2)厳しい就労指導、生活保護を抜けられるほどの仕事を探せ
生活困窮のきっかけとなった前職でのダメージから、不眠やうつ症状に悩んでいたAさんは、精神科クリニックに通いながら自立を目指していた。一日も早く復職したいという思いから、リハビリとしてNPO法人の仕事を手伝うようになった。しかし、狭山市は、「アルバイトは自立とは認めない」と、生活保護が抜けられるほどの収入を得られる仕事を探すよう指導し続け、AさんはNPO法人の仕事を辞めることになった。そして体調はますます悪くなってしまった。
(3)「友達が作ったカレーも、フードバンクでもらった食料も収入申告の対象です」
Aさんが困窮していたときに、家でカレーをふるまってくれた友達がいた。そのことを話すとAさんの担当ケースワーカーは、「そのカレーも収入申告の対象となります。フードバンクから得た食糧もです」と言った。そして、「じゃがいもがいくら、肉がいくらというように……」と続けたという。
しかし、2020年度、2021年度の生活保護手帳別冊問答集(ケースワーカーたちのマニュアル)には「子ども食堂やフードバンクを利用した場合の取り扱い」として、「収入として認定しないこととして差し支えない」としている。一度のカレーとフードバンクの食料支援で「ジャガイモいくら、肉いくら」などと説明されるのは、きわめて不適切であり、嫌がらせと取られても仕方がない対応だ。
(4)有無を言わせずに強行した扶養照会
Aさんは親族と20年以上付き合いがなく、援助してもらえる見込みはない。厚生労働省が2021年3月30日に発出した事務連絡に列挙されている「扶養照会をしなくてよい」要件は満たしているため、Aさんも親族への扶養照会の拒否を伝えていたものの、職員は「そんな通知はありません」と厚労省通知を否定し、Aさんの要望を聞いてはくれなかった。筆者がこのことをケースワーカーに問うと、「Aさんから拒否はなかった」と返答。筆者のとなりでAさんが「うそだ、言ったのに……」とうめくように息を吐いた。