数週間後、ミサキさんはコウジさんと会った。このときも暴力的な行為をされた。次第にミサキさんは抵抗する気力がなくなった。すると、室内に隠れていたもう1人の男が、暴力的な性行為に加わってきたのだ。
「このときは死ぬかと思いました。ようやく自分がされていることがレイプだと気付いたんです。それまでは恋愛の延長線上だと思おうとしていて、レイプされていると思いたくなかったのかもしれません。その場でコウジに文句を言おうとしたんです。でも、『もし、誰かに言ったら、隠し撮りをした動画をネット上で流す』と言われてしまい。私は何も言うことができませんでした」
総額100万円以上の商品を“自称女優”に
その後ミサキさんは警察に被害届を提出したが、捜査の進展はないという。一方、男性も被害に遭うことはある。芸能人を装ったオンライン上の人物に騙されて、貢いだユーザーがいる。30代の男性、ツヨシさん(仮名)のケースを紹介しよう。
ツヨシさんは、遊ぶ相手としての女性との接点は多かったものの、結婚を考えるきっかけまでは至らなかった。結婚を考えたツヨシさんは、マッチングアプリに登録した。それなりの人数の女性とマッチし、デートの回数も二桁になった。ただ、結婚の話をすると、うまくいかずに悩んでいた。20代のナオさん(仮名)とのマッチングしたのはそんな時だった。
「僕は映画が好きなので、最近見た映画や、気になっている作品の話をしたんです。そしたら、ナオさんは映画に出演したことがあると言ってきたんです。実は、僕も、ある映画で、エキストラをしたことがあって。同じエキストラ経験者かと思って、話が盛り上がったんですよ」
ツヨシさんはナオさんとデートの約束をした。すると、ナオさんは、ある女優の名前をあげた。それが自分だと言い、気軽には会えないと伝えてきた。
「出演した作品とか、最近のスケジュールなども教えてくれたんです。仕事を続けるかどうかも悩んでいると言ってきました。その数日後、ブログで同じ悩み事の話が書かれていたので、信じきってしまい……」
そのうち、ナオさんから「生活が困っている」との連絡があった。ツヨシさんは「会うための投資」と思い。ナオさんのSNSに掲載された「ほしいものリスト」を見て、商品を購入しプレゼントした。するとお礼のメッセージが届き、出会える期待感が高まった。デートの約束の日、しかし、ナオさんは現れない。会おうかどうしようか迷っている素振りをし、結局、ツヨシさんの前に現れなかった。
「総額で100万円以上の商品を贈ったと思います。応援の気持ちと出会える期待がありました。会おうとしてくれたのは本当の気持ちだと思ってしまっていたので。注ぎ込んだ金額を取り返したいという気持ちにもなりました」
そのうち、メッセージが途絶えた。仮にナオさんが本物だとしたら女優名を言ってしまっていることや、中途半端にメッセージを途絶えさせたことは、評判に関わるリスクだ。そんなことをするだろうか。ツヨシさんは今では偽物ではないかと疑っている。
紹介したケースは氷山の一角だ。マッチングアプリは前述のように性犯罪者や詐欺師、最悪の場合は殺人犯とマッチングしてしまうこともあるのだーー。
取材・文/渋井哲也
ジャーナリスト、ノンフィクション作家。インターネット、サブカルチャー、援助交際、自殺、生きづらさなどをテーマに取材、執筆を行うほか、大学でも教える