宇多田ヒカルも夢中、落とし物の哀愁……
歌手の宇多田ヒカルは、「落とし物の撮影」に夢中だと、あるテレビ番組で明かし、魅力をこう語った。
「本来たどるべきはずだった運命からこぼれ落ちて、予期せぬ出来事を甘受せざるをえない、誰にも目もくれられずにいるものが好き」
最初に見つけたのは、歩道で見つけたアダルトDVD。「何で落としたんだろう?」と妄想が膨らみ、以来、「面白いもの、かわいそうだと思うもの」を撮影するらしい。
グラフィックデザイナー兼イラストレーターの藤田泰実さん(39)も、路上で撮影した落とし物から物語を妄想し、写真に添えている。きっかけは、6年ほど前に大宮駅前で見つけた醤油の小袋6パックだった。
「醤油パックなんて1、2個あれば十分でしょ。なのに6つなんて随分欲張ったものだなと。でも、全部落としちゃって。昔話の欲張りじいさんみたいな人物を思い浮かべました」(藤田さん)
「後釜」と名付けた写真も切ない物語を妄想させた。公園の標識にかけられた帽子を撮影すると、同じ型の帽子をかぶり散歩する人が偶然、奥に写り込んだのだ。
「拾ってもらおうと思って主人を待っていたのに、主人は『後釜』を見つけてしまっていた……というドラマが浮かんだんですね」
SNSでは、落とし物の写真を「拡散希望」としてアップした後で警察に届ける人も増えている。日本ではなくしたものと再会できる可能性が高いのだ。
前出の遺失物センター所長・五十嵐さんに『遺失届』を出す際の注意点を伺った。
「例えばアニメキャラクターの絵があるとか、傷や汚れがあるとか、細かい情報が決め手になって発見されることがよくあります。遺失物センターで働く職員は、ブランドやキャラクターなどに非常に詳しくなります。諦めずに、遺失届に細かい情報を記載してほしいです」
新しいものを買い直す前に、「届ける文化」を信じ、行方を捜してほしい。これもまたサステナブルな行動であり、再会できれば、愛着もひとしおだろう─。
<取材・文/小泉カツミ>