長男を甘やかす母に責任を問いたい

 私が怒りを覚えているのは、ニーニーだけではない。最大の問題は、ニーニーを甘やかす母である。出来の悪い長男をなぜここまで甘やかすのか。3人の娘たちは配慮も遠慮も気遣いもできる。

 長女の良子(川口春奈)は努力家で、家計を支えるために必死で勉強し、学校の教員になった。次女でヒロインの暢子も、家計をやりくりしながら毎日料理を家族のために作る。そして身体の弱い三女(上白石萌歌)は歌がうまく、裁判沙汰になりかけた兄を歌の力で救った経緯もあった。全員が家族最優先で、反抗期もなく、ワガママも文句も言わない。

 それなのに、兄だけがふがいなく、しかも母が甘やかしている構図に、ぎりぎりと歯ぎしりしてしまう。「賢秀は気性がまっすぐだから、家族のことを考えてくれてるさー」って、息子を過大評価してきた、あるいは放置してきたツケが姉妹に回っているのだから、少しは責任を感じてほしいと思う。

 実際、ふがいない長男が全国に驚くほど多く、そのきょうだいたちはやきもきしている。その責任はおそらく「息子(特に長男)に甘い母親」にある、と私は思っている。

 ま、比嘉一家のもうひとつの問題点は「前借り体質」にもある。母もニーニーも、そしてネーネーまでもが、割と頻繁に前借りをする。今よりもずっと寛容な昭和40年代には当たり前だったのかもしれないが、一家そろって前借りに抵抗がないのも怖い。もちろん、前借りするほか手だてがないのが貧困の問題なのだけれど。

 この朝ドラで、私が最も思いを寄せるのは大叔父である。奇しくも大叔父は初回から比嘉家の問題点を見抜いていた。自分の家も貧しいのに、さらに貧しい近所の子どもに食事を与えてしまう優子に対して、「お人よしだから、そのうち誰かに騙されるよぉ」と言っていたのだ。まさか私も石丸謙二郎に思いを寄せる日が来るとは思ってもいなかった。

ニーニーのクズ伝説はいつまで続くのか

 そして、また一波乱。行方不明だったニーニーが突如60万円という大金を送ってきたのだ。東京でプロボクサーになって稼いだという。デビュー戦の華々しい勝利を報じた新聞も同封されている。

 おかげで、大叔父の借金も、銀行の借金もすべて完済。暢子も料理人になる夢をかなえるべく、東京へ出てくることができた。しかし、安心してはいけない。アホで根性なし、三日坊主のニーニーがそんなうまくいくはずもない。

竜星涼…当時19歳。『獣電戦隊キョウリュウジャー』(’13年)の桐生ダイゴ/キョウリュウレッドを演じた。その後は『ひよっこ』(’17年)、『昭和元禄落語心中』(’18年)、『35歳の少女』(’20年)などに出演
竜星涼…当時19歳。『獣電戦隊キョウリュウジャー』(’13年)の桐生ダイゴ/キョウリュウレッドを演じた。その後は『ひよっこ』(’17年)、『昭和元禄落語心中』(’18年)、『35歳の少女』(’20年)などに出演
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 暢子は東京へ行き、ニーニーのいるボクシングジムを訪ねると、大金の真相が明かされる。実は華々しく勝ったのはデビュー戦のみ。しかも相手がたまたま腹を下していただけ。2戦目でニーニーはボコボコにされ、1ラウンドで試合放棄して逃亡したという。60万の大金はファイトマネーでもなんでもなく、ボクシングジムの会長(具志堅用高)に借りた金であり、さらにはボクサー仲間たちにも借りまくっていたのだ。結局、比嘉家の借金はさらに増えたというわけだ。もう、開いた口が塞がらない……。

 頼りにしていた兄が行方不明で、路頭に迷う暢子。ところが、横浜・鶴見で実に都合よく沖縄県人会会長(片岡鶴太郎)に拾われ、銀座の有名なイタリアンレストランに就職の紹介状まで書いてもらう幸運。

 しかも、この店のオーナー(原田美枝子)は暢子の亡くなった父となにやら関係がありそうというご都合主義。あまりのとんとん拍子っぷりには「艱難辛苦の朝ドラヒロイン」が好きな人達は心の底から辟易しているのだが、ニーニーがクズ街道を爆走してくれるおかげで、目が離せなくなっている。

 暢子がバイトをしながら下宿させてもらう沖縄料理屋に、これまた偶然、ニーニーが酔っぱらって現れる。一晩ともに過ごす兄と妹。ところが、朝起きるとニーニーはいない。そして例のごとく、「部にして返す!」のメモが残されている。暢子の財布から金を盗んで逃げたのだ! 私の中では憎悪が一瞬殺意に変わったよ……。
 
 嫌な予感、イラつき、絶句、閉口、絶望、殺意……もう、ニーニーに対しては比嘉家の誰よりも説教したいし、どつきたい。逆に、誰もどつかないのが不思議。私だったら縁を切りたい……。

 ニーニーのクズ伝説はいつまで続くのだろうか? 微笑ましくなんて観ていられない自分は狭量なのだろうか? ふがいない長男が今後どれだけ一家の安定と平和に寄与したとしても、私の心の中のわだかまりは消えそうにないんだけどなぁ。

吉田 潮(よしだ・うしお)
 1972年生まれ、千葉県船橋市出身。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』(フジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。また、雑誌や新聞など連載を担当し、著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、くさらないイケメン図鑑(河出書房新社)、産まないことは「逃げ」ですか?』『親の介護をしないとダメですか?』(KKベストセラーズ)などがある。