柳生博さん
私は訃報欄で「老衰」という死因を見ると疑問を覚えてしまう。すっかり衰えて死んでしまう─そんな印象を覚える。天寿をまっとうしたとも解釈できるけど、「老」いて「衰」えるという文字の並びが、力尽きたという感じで寂しさを覚える。だから、「老衰」よりも「大往生」のほうがいい。
そんなことをふと考えてしまったのは、俳優座養成所の同期生だった柳生博さんが、先日「老衰」で亡くなったからだ。奥さまであった二階堂有希子さんも同期。2人とは、気心の知れた仲だった。
柳生さんは、船乗りになるため東京商船大学(現在の東京海洋大学)に入学するも、体調を崩してしまい中退。そして、役者の道を志した人。私が再独身となり、芸能界に復帰して、9年ぶりのドラマ出演となった『エプロンおばさん』(フジテレビ系)。その夫役が、柳生さんだった。
柳生さんはいつもニコニコ。頼りない夫役がぴったり。私は元気な役だったから、2人の対照的なキャラが好評を得た要因だったと思う。柳生さんは、「僕は太らないんだ」と、よく自慢していた。
変わらないスマートな柳生さんだったけど、俳優座時代を知る同期としては、まさかあんなに髪の毛が薄くなるとは思わなかった……。
「これ誰かわかる? 柳生博よ!」
若い頃の柳生さんの写真を見せて、みんなを驚かせたこともある。あまりに人々のリアクションがよいものだから、その後も彼の写真を持ち歩いて、時折ネタのように写真を見せていたっけ。きっと笑って許してくれるだろうけど、柳生さん、ごめんね。
奥さまである二階堂さんが認知症となり、園芸家だった長男は若くしてがんで亡くなった。愛妻の介護をしていた柳生さんは、最後まで立派で誠実な人生を歩んだんだと思う。だから、彼が「老衰」という力のない最期であったとは思えないし、思いたくない。
〈構成/我妻弘崇〉