抜け出すための一歩を

勇気を出してつらい状況から一歩踏み出し、ひきこもりの支援窓口にたどりつく主婦もいる。しかし、助けを求めたひきこもり主婦たちはそこで傷ついた心をより深く傷つけられるということも多い。その要因のひとつが当事者である彼女たちと支援現場の認知の差異。

 ひきこもりというと10代~30代などの若い世代の男性が多いと思われがち。実際に自治体の支援窓口への相談者は若い男性が多いというアンケート結果もある。しかし、内閣府の調査結果にあるように「主婦」という肩書によって彼女たちはひきこもりと認知されず、時には「甘え」と認識されてしまう場合も。中には叱責や説得されたというケースもあるそうだ。現状を変えたいと勇気を出した行動を否定されてしまい、より声が上げられなくなる。

 救われる場所はないのか。林さんは「専門的な医療機関や行政などの支援よりも、ひきこもり女子会のように当事者同士で交流することがまず第一」とアドバイス。実際に参加者からは「自分の言っていることに初めて共感してもらえた」「やっと思っていることを話せた」「生きていてもいいんだと思えた」という声がある。

 長年抱え込んだ心情を、似た境遇の参加者たちに打ち明けることで顔つきが明るくなった女性が多い。もちろんすべてが解決したわけではないが、「打ち明けられる、自分を受け入れてくれる場所」を見つけることが大事なのだ。

 また、参加者の中には、同じような境遇の女性が自立するために努力しているという話に勇気をもらい、現状を打破するためのさらなる一歩を踏み出せた女性もいる。ただ、ここで間違ってはいけないのはひきこもりの「ゴールが何であるか」。

「就労や自立することが最終的な目標として掲げられることが多いが、唯一の解決ではないと思います。外に出て、多くの人と交流できるようにならなくてもいい。ほんの少しの人間関係を築くなど、要は自分の心が安定する環境を手に入れること。外に出ることが最終目標ではなく、今の自分でいいんだと思えることが何よりも大事です」

お話を伺ったのは……
一般社団法人ひきこもりUX会議
代表理事 林 恭子さん

 高校2年で不登校、20代半ばでひきこもりを経験。同じような経験をした当事者たちと出会い、少しずつ自分を取り戻す。現在はイベントの開催や講演会・研修会の講師、執筆などを通じ当事者の立場から発信している。


取材・文/オフィス三銃士