レジェンド声優に聞く! その1
柴田秀勝(しばた・ひでかつ)さん
1937年、東京都生まれ。麻布中学・高校から日本大学芸術学部演劇科を卒業後、俳優の道へ。『タイガーマスク』のミスターX役で本格的に声優デビューを果たし『宇宙戦艦ヤマト』『鋼の錬金術師』など人気作に出演。株式会社RMEの代表取締役会長として、後進の育成にも尽力。
“声優”という職業が確立していなかった'60年代から第一線で声の仕事をしている柴田秀勝さん。これまで、主人公の敵役や宇宙人、妖怪など幅広いキャラクターに命を吹き込んできた、まさに“レジェンド”だ。
「かつて声の仕事は、俳優のアルバイトでした。僕自身も俳優が本業で、テレビドラマにも出演していたころ『狼少年ケン』(1963年)という作品で初めてアニメーションに声をあてたんです。それから数年がたったころ、東映のプロデューサーになった大学の先輩から『タイガーマスク』(1969年)の敵役・ミスターXのオファーが来ました」
その際、先輩から「声専門のプロダクションを作ってほしい」と打診を受けた柴田さんは、故・久保進さんとともに「青二プロダクション」を設立。青二プロは、今も業界最大手の声優事務所のひとつだ。
「『タイガーマスク』は、自分の声優人生の中でもターニングポイントになった作品です。僕は幼いころから“吃音症”で、とくに『タ行』を発するのが苦手でした。テレビドラマ出演時も苦労したので『声専門の俳優なんてできない』と思っていたんです。
しかも、タイガーマスクも『タ行』なので『タイガーめ』という定番のセリフがどうしても言えない。そこで考えて試してみたのが“含み笑い”でした。セリフの頭に『ふふふ』と含み笑いを入れると『タイガーめ』が難なく言えたんです」
作戦は功を奏し、全105話を終えるころには、含み笑いなしで「タ行」が言えるようになったという。
「今の自分があるのは『タイガーマスク』のおかげですね」
自ら解決策を見いだすだけでなく、先輩声優からの助言にも助けられた、と柴田さん。
「『ゲゲゲの鬼太郎』の初代ねずみ男を務めていた故・大塚周夫さんのアドバイスは一生忘れられません。僕が『水戸黄門』(25〜27部)のナレーションをしていたころ、大塚さんから『水戸黄門見てるぞ! いいよ、なかなかいい! でも、ターゲットが広すぎるよ。テレビの前で見ているのは1人だ。そんなイメージでしゃべってごらん』と言われたんです。今まで“テレビの前に何人いるか”なんて考えたことがなかったので、衝撃を受けました。それ以来、マイクの前に立つときの心持ちは大きく変わりました」
創生期を支えた柴田さんは「いつの間にかレジェンドになっちゃったね」と笑う。
「昔は、声優が人気の職業になるとは想像もしていませんでした。しかし、作画技術の変化向上などで声優に求められる仕事もどんどん変わってきて、話芸という演技の“答え”は自分の耳で探すしかない。これからの声優は、時代の変化とともに求められるものを敏感に察知する能力が必要ですよね」