25歳で結婚して2人の子どもを出産し、子育てしながら教師の仕事にもやりがいを感じていたが、30歳のときに家庭の事情で退職を余儀なくされた。その後、離婚と再婚を経験し、俳人として活動していた折にテレビから声をかけられる。

「私にオファーしたときはまだ、制作陣は俳句が面白いとは思っていなかったでしょうね。それが今では番組を見た人たちが“俳句って面白い”“日本語ってすごい”、小学生たちが“夏井先生、助詞すごいですね”って言い出すようになってきました。『プレバト!!』という番組は、それまでの俳句番組では実現しなかった俳句への間口を広げるきっかけになってくれたんです」

スタッフの“俳句知識”が分厚くなって

 コテンパンにけなされて、“おっちゃん”こと梅沢富美男がキレることも。

スタッフから厳しくやってくれ、なんてお願いされたことはないですよ。いい俳句はいい、下手なもんは下手って言ってきただけです。番組側も、CM前に“ここにはどんな助詞が入る?”ってナレーションを入れるなど、見せ方を考えていく。そこからリビングで、家族が集まって“これは『や』かな〜”なんて言い合うようになってきた。番組やスタッフは、“俳句の種まき運動をバックアップしてくれる同志”という感じですね」

 夏井は作者が誰か伏せられた俳句を採点。「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」にランク分けして順位を決定する。好成績を残すと特待生になり、さらに名人に昇格。最高位の永世名人には梅沢や東国原英夫なども名を連ねる。

私は出演者それぞれの個性に合わせて、どう俳句の力を育てていけばいいか考えるだけです。おっちゃんは正攻法で、俳句の王道のところで何度も繰り返して、しっかりと実力をつけてもらう。東さんは発想力がとんでもないので、自分の発想を技術でコントロールする方法を伝える。内容に注目して番組を見てもらえると、私が怒っているだけではなくて、作者ごとに指摘する内容の違いも楽しめると思いますよ」

 出演者が腕を上げるにつれて、スタッフも俳句への興味を深めていった。

夏井いつきは学校教育の場でも定期的に「句会ライブ」を開催し、日本語を使いこなす技術を伝える
夏井いつきは学校教育の場でも定期的に「句会ライブ」を開催し、日本語を使いこなす技術を伝える
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「最初のころはスタッフの俳句脳が育ってないから、とんちんかんなことばっかりだったんです。詠まれた俳句の光景を再現するVTRは、俳句の解釈をわかってないととんでもない映像になる。当初は、オンエアで初めてVTRを確認して、驚いて抗議することもありましたが、今は、スタッフの知識が分厚くなってきて、指摘することがほとんどなくなりました」

 成長したことで、編集の手法やタイトルの入れ方が巧みになってきた。

「自分が俳句に詳しくなったら番組がよくなっていくんだ、というスタッフの向上心が育っているんですよ。こっそり俳句をやり始めた人もいますし、私が選者をしている『おウチde俳句くらぶ』に投稿している人もいます。スタッフの意識の変化が、出演者の実力にもそのまま反映されていますよね」