万引きを繰り返していた高橋沙耶香容疑者(※画像は一部加工しています、知人提供)
万引きを繰り返していた高橋沙耶香容疑者(※画像は一部加工しています、知人提供)
【写真】万引きを繰り返していた高橋沙耶香容疑者(※画像は一部加工)

「事件取材のほか、高校野球の地方大会や保護猫の飼育問題、北炭夕張新炭鉱ガス爆発事故の周年振り返り記事など精力的に取り組んでいた。激辛マニアでもあり、東京や関東近県の有名店『蒙古タンメン中本』で激辛の北極ラーメンを食べるほど。その意外性を売りに人脈を広げていた」(容疑者の知人)

 勤務評定や人柄はどうだったのか。生活に困窮していた様子の有無や処分の行方などを読売新聞グループ本社広報部に質問すると、

「社員のプライバシーにかかわるご質問にはお答えしかねますが、会社としては、事実を確認した上で、適切に対応して参ります」

 と回答した。

 約2か月のあいだに2度の万引き。正社員として安定収入があったから、いずれも払えない金額ではなかったとみられる。

 盗品数が多いのも気にかかる。防犯カメラがあることもわかっていただろうし、新聞記者の社会的役割からして、自らこのような犯行をした場合は実名報道されやすいと知っていたはずだからリスクは大きかった。

 なぜ、社会的立場やリスクを顧みず犯行に走ったのか。

 犯罪心理学に詳しい新潟青陵大学大学院の碓井真史教授(社会心理学)は、「逮捕事実だけでは断定できませんが」と前置きして、次のように話す。

犯行にいたる合理的理由がない

「生活に困っていたなどの経済的理由から万引きしたのではないとすると、心の問題になります。子どもの場合、ストレスがたまっていたり、親に反抗したくて欲しくもないものを盗むことがある。大人の場合は、精神医学の診断名で『窃盗症(クレプトマニア)』と呼び、犯行にいたる合理的理由はありません。貧乏ゆすりや爪を噛むクセと同じようなもので、本人が止めようと思っても、説教されても止められない。盗んではいけないと重々わかっていながら気付くとやっている。そういう人がいるんです」

 それにしても、高学歴で社会的地位もあるのだからブレーキがかかりそうなもの。逮捕されたくはないだろうから、もう少し人目につかない状況を選んでもおかしくない。善し悪しはともかく、そうした計算もできなくなってしまうのか。

「例えば拒食症の人は“食べないと死んじゃうよ”と言われても食べられないことがあります。高所恐怖症の人は、部屋でイスの上に立って照明灯の電球交換もできなかったりする。イスから落ちそうになったらピョンと飛び降りればいい、とわかっていても。学歴や社会的立場は関係ありません。心身ともタフな格闘家が精神を病むとみなさん意外に思われたりしますが、どんな人でも心の病にかかることはあります。リスクを負ってダイヤモンドを盗んだのであれば納得しやすいのかもしれませんが、割に合うかどうかという性質ではないのです」(碓井教授)

 法治国家で窃盗は許されない。しかし、精神医学上、診断名がつくケースでは、ただ刑罰を与えるだけでなく、治療する必要があるとの声があがっているという。

 再犯を防ぐにはどうすればいいのか。

「心の病は、理屈ではわかっていても自分の感情や行動をコントロールできないからつらいんです。精神科医など専門家の診断を受けるようお勧めしたい。カウンセリングでストレスや不安要素が見つかるかもしれませんし、薬を処方できるかもしれません」(碓井教授)

 それにとどまらず、行動療法として“模擬コンビニ”なる訓練方法があるという。

「全国に数は少ないですが、病院などの施設内にコンビニの模擬店を作ってそこを歩かせるんです。すると盗みたくなり、そのときにどうすればいいかを学ぶ。例えば親指を内側に入れてギュッと拳を握ると我慢できるとか。あるいは盗ませて、模擬店を出るときに店員役の病院職員がポンポンと肩をたたき、“盗んじゃダメだよ。返さないとね”と繰り返して覚えさせる。すぐに治療効果が出るわけではないので、治るまではひとりでスーパーやコンビニなどに行かないようにします。そうやって多角的に取り組みながら治していくんです」(碓井教授)

 逮捕された記者が窃盗症かどうかはわからない。窃盗症だとすると、本人にその自覚があるケースが多いというから、向き合ってこなかったことが悔やまれる。さまざまな事件の顛末などをみてきた記者らしからぬ犯行であることは疑いがなく、捜査の進展が待たれる。