無低とは、生活困窮者が無料、もしくは低額な料金で利用できる民間施設。社会福祉法に基づき、NPO法人などが設置運営している。厚生労働省によると全国に608施設あり、入居者は1万6397人で、そのほとんどは生活保護利用者である。
私が取材で見聞した中には、入居者を無給で働かせたり、実際には購入していない衣類や布団の費用を自治体に請求したり、入居者の携帯の位置情報を勝手に取得して逃げ出した人を連れ戻したりと、悪質どころか違法行為が横行している施設もあった。大規模無低での殺人や暴行事件が社会問題となったこともある。
そして、悪質無低以上に問題なのは、ナオトさんの経験からもわかるように、住まいがない状態で生活保護申請する人をなかば強制的に無低に入れてしまう自治体の対応だ。
生活保護法には居宅保護(アパートでの保護)の原則がある。また厚生労働省は「1人暮らしができる人については、必ずしも無低の入所を経る必要はない」など、無低入居が生活保護申請の条件であるかのような説明をしないよう求める事務連絡を各自治体あてに出している。本人の意思に反して無低に入居させるのは、不適切であるだけでなく、行政が貧困ビジネスの片棒を担いでいるといわれても仕方がない。
ナオトさんは「ケースワーカーが足りなくて多忙だということもわかります。とりあえず無低に入れるというのは、便利なんだろうとも思います」としたうえで、実に的確に無低問題の本質を突いた。「無低は一度入れられてしまうと、自力では出られない。そういうところに、行政が強引に(生活保護利用者を)行かせるのは、やっぱりどうかと思います」。
高校卒業後、新聞販売店で働き始めた
ナオトさんは自らの生い立ちについて多くを語ろうとはしなかった。ただ裕福とはいえない母子家庭で、大学進学は諦めたという。高校卒業後、知人の紹介で新聞販売店で働き始めたが、ここがとんでもなく劣悪な職場だった。
最初は配達だけという約束だったのに、すぐに集金も任されるように。社会保険もないうえ、ノルマを達成できない場合は給与から天引きするといわれたので、朝夕刊配達の合間や週末も集金に駆けずり回った。仕事の隙間を縫うようにして取る睡眠は細切れで、眠れても1、2時間。なんとかノルマは達成できたが、休日は1日もなかったという。
こんな働き方では心身ともに1年が限界。ただ販売店はいつも人手不足で、到底辞めたいなどといえる雰囲気ではなかった。しかし、このままでは本当に死んでしまう。ナオトさんは突発的に職場から逃げ出した。このとき、社員寮が販売店と隣接していたこともあり、パスポートやキャッシュカードといった貴重品を持ち出し損ねた。その後は友人宅などを転々としたが、メンタルの不調が続き、気が付いたときには、身分証明代わりの運転免許証は失効、携帯も料金未払いで通話機能が止まってしまったという。