デビュー時から変わらない聖子の価値観
実はそういったところも、スターの素質のひとつ、と若松さん。
「“まぁいいわ、どうにでもなれ”と開き直ることで、自分らしさが出るんですね。聖子に限らず、人よりも練習して覚えてってやっちゃうと、逆に売れないことのほうが多いんですよ。
あとね、性格は歌にもろに出るんですね。だから、いくら歌がうまくて姿かたちがよくても、やっぱり性格が大事なんです。
歌は娯楽だから、性格の中の娯楽性が高くないと。希望を感じる、勇気づけられる歌のためには、真面目じゃダメなんですね。聖子の歌が親しみやすいのは、聖子の心があってこそだと思います」
また、もう一つ優れている点は彼女の素直さでサッパリとした気性。
「私が彼女をプロデュースした9年の間、聖子は常に私を信頼してくれ、クリエイションや、やる・やらないなどの大事な局面ではいつも私に託してくれましたね。
人気が出て、彼女の周りは複雑になったけれど、そこはブレることがなかった」
シングル、アルバムと、若松氏が用意した楽曲に意見したことは1度もなかったという。
「普通、売れてくるとそんな人はいないんです。特に私はきついことを言うし、歌に対しては怒ったりと厳しかったので、みんな売れると逃げていくんですが、聖子は一貫して私を信頼してくれていましたね」
昨年、娘の沙也加さんを亡くすという不幸に見舞われながらも、4か月後にはステージへと復帰。聖子を突き動かしているものはなんなのだろう。
「歌うことが、根っから好きなんですよね。それが聖子自身の人生、生きている意味っていうのかな。その価値観は、まわりの環境がどうあれ、ずっと貫かれる部分だと思います。
歌手は人気商売なので、大衆の波動に振り回されたり影響を受けやすいものです。自分の心に波風を立てると苦しくなってしまうから。
聖子も、たとえうまくいかないときがあっても、自分が何をやりたいのか、自分の気持ちに忠実に、これからも歌い続けていってほしい」
お話を伺ったのは……
○1940年生まれ。音楽プロデューサー。CBS・ソニーに在籍、1本のカセットテープから松田聖子を発掘。80年代後期までのシングルとアルバムを全てプロデュース。ソニー・ミュージックアーティスツ社長、会長を経てエスプロレコーズ代表。本書『松田聖子の誕生』(新潮社)が初の著書。