「ビートたけしや松本人志などが身を削ってやっているようなストイックな笑い、ハードで硬派な笑いですよね。日テレ系の『スーパーJOCKEY』には“熱湯CM”なんて人気コーナーがありましたけど、『DAISUKI!』は当時“ぬるま湯バラエティー”と言われ、賛否両論があったのも事実です」
ここで宝泉さんは、消しゴム版画家でコラムニストだったナンシー関さんの存在を引き合いに出す。
「彼女が中山秀征を目の敵にしていた話は有名ですよね。“中山秀征がお笑いを名乗ることが許せない”と。“芸能人が芸以外のものをさらしてもつまらない”というのが彼女の持論でしたから」
中山秀征の面白さとは
ナンシー関さんいわく、ギリギリ許されるのは、ビッグ3(ビートたけし、明石家さんま、タモリ)のゴルフ、そして松方弘樹さんや梅宮辰夫さんの釣りまで。
「つまり、自分たちとはまったく違う世界の人が何かやってるから見る価値があるのであって、自分たちと大して変わらないような人間が、何か趣味を興じているようなものを見ても全然面白くない、というのが彼女の意見だったわけです。
『DAISUKI!』は視聴者の日常と地続きにあるバラエティーだったわけですが、結果的に今の時代の状況を見ていると、意外と芸能人の日常を見せるだけの番組がまあまあ数字(視聴率)を取っているんですよね。硬派と軟派、どちらの笑いが面白いかは別として、ぬるま湯の心地よさみたいなものが時代とともに主流になってきたことを改めて感じます」
『DAISUKI!』を成功させた中山秀征は、『THE夜もヒッパレ』『TVおじゃマンボウ』と日本テレビの番組に次々に抜擢され、しっかりヒットさせていく。
「中山秀征は緩さを体現しつつ、ものすごくいい仕事をしていたんですよ。'90年代、その評価はとても高くて。ある意味、時代を作った人でもあると思います。当時、日テレ系でみのもんたがやっていた『午後は○○おもいッきりテレビ』を引き継ぐのは中山秀征ではないかと業界では目されていましたから」
現在、中山秀征が『シューイチ』(日本テレビ系)で日曜朝のMCだけにとどまっていることは、むしろ失速感があると宝泉さん。
「中山秀征は結局、いろんなことをやれる面白さっていうことなんだと思います。それはストイックな芸能論でいうと邪道なんですが、ここ10年くらいで“芸能ってもしかしたら、そっちこそ王道なのかもしれない”という雰囲気が出てきました。例えば現在、松本人志は『人志松本の酒のツマミになる話』やフジテレビ系の『ワイドナショー』などもやっていて、硬派なコントだけで生きているわけではないですよね。
テレビというメディアの地位が昔とは変わってきた中、結局、今の芸能人はマルチに向かうしかない、みたいなところがあるように思います。だから、そういう意味でも、今回の『DAISUKI!』の復活が、“中山秀征再評価”につながったら面白いなという気はします」
PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。