商業ビルからジージージーと低音が
「遮断機が下りて電車が通り過ぎた後まで同じ音量で鳴らさなくてもいいのではないですか? 時間帯によって音量を変えるとか、繁華街と住宅街で音量を変えるとか、対策はなさっているのですか?」
その回答は期待に沿うものではなかったという。
「うちは全踏切一律の音量と長さで警報を鳴らすシステムを使用しているので、個々で音量を変えるのは難しいです。細かく変えるシステムにするには、莫大なお金が必要で、今のところ予定はありません」(鉄道会社エリア部長)
話し合いを続けた結果、今西さんの切実な思いが届いたのだろう。最終的に、鉄道会社から次の2つの対策が提案された。
1.経年劣化で、線路を挟んだ左右のスピーカーの音量が異なっていたため、設定時より大きくなっていたほうの音量を下げて小さい方にそろえる。
2.マンション側に上向きについていたスピーカーを警告に差しさわりない範囲で斜め下向きに変える。
今西さんは、鉄道会社に相談してみて良かったと話す。
「現場で判断できる対策の範疇ではありましたが、その日から耳に伝わる音がやわらぎましたから」
コロナ禍になって突然、快適だった住環境が奪われた人もいる。九州で事務系の会社員として働く中村朋美さん(仮名=42)は、リモートワークを始めて約2年間、“営業騒音”と闘っている。
「ジージージーという低音が、隣接する商業ビルから響いてくるんですよ。しかも、早朝4時台から22時まで! とても仕事ができる環境ではなくて困り果てちゃって……」
管理人に相談すると、「あなたのお部屋もですか……」と驚かれた。既に10件以上、苦情が入っていたという。
「築30年で、購入者が多い分譲マンションですから。今まで一度も騒音なんてなかったので、みんなびっくりしたんでしょうね」
音の発生源は、コロナを機に一斉に機種交換された強力な換気扇と大型エアコンの室外機。ビルの中にあるテナントが営業を続けるため、工事が決まったという。
「マンションとビルの間は人が1人通れるくらいの隙間で、屋外の踊り場にズラッと室外機が並んでいます。こちらは窓側ですから、ダイレクトに音が響く。驚いたのは、費用をかけたくないのか、そもそもの対策があまりにも雑だったこと。新しい室外機のサイズに適応しない防音壁を再利用したため、室外機を完全には覆えず、はみ出している状態なんです」
マンションの住民組合は、ビル管理会社に騒音の調査と対策を申し入れた。結果、最も稼働が多い時間帯で60~70デシベルと判明。企業との話し合いは平行線で、住民らの怒りは募るばかりだ。
中村さんのケースは、最近増えている「低周波音」の被害の一例だ。工場やビル、店舗などに設置された空調室外機、ボイラー、冷凍機、ヒートポンプ給湯器が発生源になることが多い。騒音調査を行う『有限会社アクティブリサーチ』代表・小林政光さんは、その音の特徴をこう明かす。
「低周波音は低い唸り音で、ガラスを透過して室内で反響する性質があります。二重サッシや二重窓などの対策をしても、高音と中音だけ遮音され、低音だけが残る。そのため、逆に不快感が強まることがあります。踏切遮断機の音などは高音が主体のため二重サッシが有効ですが、低周波音は対策が難しい騒音です」