長嶋一茂が父から受け継いだもの

 また、野球以外の魅力、たとえば天然ぶりでも一茂は父親ほどではない。むしろ、その被害(?)をこうむった側だ。

 子どものころ、父親に連れられていった球場に何度も置き去りにされたというエピソード。ミスターの忘れっぽさを示す笑い話として紹介されがちだが、子どもにとってはトラウマにもなりかねない。実は一茂、巨人の本拠だった後楽園球場について、隣接する場外馬券場の雰囲気が怖くて当時好きではなかったと回想している。

 父親が偉大すぎたせいか、財産や介護をめぐって、妹の長島三奈(54)とは確執状態にあることも報じられた。彼にとって、野球は必ずしもよい思い出ばかりではなかったように感じられるのだ。

 そういえば、パニック障害などの回復にも、大好きな極真空手に熱中したことがよかったと本人は言う。第の人生についても「(自分の成績では)説得力のある解説はできない」として、バラエティーやドラマに活路を求めた。野球からは意識的に距離を置いてきたのである。

 そこが夏の甲子園をめぐる「どこでやってもいい」という発言、ともすれば投げやりにもとれる提案につながっているのではないか。

 ただ、今回の発言、父親譲りの才能も発見できないわけではない。ミスターは「失敗は成功のマザー」をはじめ、英語をまぜてしゃべるのが得意だ。

 熱中症の危険を回避、ではなく「リスクをヘッジ」と言ってしまうあたりはまさに、長嶋家の伝統。バカ息子ではなく、立派な跡継ぎ息子と呼びたい。

宝泉薫(ほうせんかおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)