客層も違う。日本だとお笑いのファンは若い女の子が多いが、アメリカは男女半々。カップルが多く、大人向けのエンターテインメントだとデーブさんは強調する。
「下ネタもありだし、危ない過激な話を聞きたいから客はお金を払う。コメディアンはギリギリの線でネタをやらないといけないので、頭がよくないとダメ。
しかもSakuさんは英語のハンディもある。語学力に加えて理解力と知識がなければいいネタは作れないから、ネイティブの10倍くらい大変だと思いますよ。でも、彼は吸収力がすごいんですよ。反応が速いし好奇心も強い。関西人でノリもいいから、こっちもいろいろ協力したくなるんです」
デーブさんの言う“ギリギリの線”というのは時代によっても変わる。昨日までOKだったジョークが、今日はOUTということもあるので、見極めるのが難しいとSakuさんはこぼす。
例えば、こんなネタがある。Sakuさんが道を歩いているとアジア人だというだけでお辞儀してくる人がいる。だったら自分は白人を見たら指で銃の形を作って「スクールシューティングするぞ」と叫ぶというもの。
「人をステレオタイプで見るのは好きじゃないと思って作った相当ダークなジョークだけど、そのネタを今やったら炎上しますよ。
アカデミー賞の授賞式でウィル・スミスにビンタされたコメディアンが口にした容姿いじりとか人種差別ジョークも、今では時代錯誤だとされています」
地域差も大きい。リベラルな都市でウケたネタが、保守層の多い州ではまったくウケないこともある。いちばん前で見ていた客にビール瓶を投げつけられたり、「日本に帰れ!」と罵倒されたり……。
金銭的にもシビアだ。9割のコメディアンはギャラだけでは食べていけず、昼間に別の仕事をしているという。Sakuさん自身、収入が少ないときは、日本の雑誌へのコラム執筆、英語のオンラインレッスン、翻訳、通訳など単発でたくさんの仕事をして生計を維持してきた。
「メンタルヘルスを保つのは大変ですよ。うつになる同僚はめっちゃいますし、自殺も何人も見たし。薬物に手を出す人も本当に多い」
インタビュー中、何度かメンタルヘルスに言及したSakuさん。背が高くてがっちりしており、何よりいつも笑顔で明るいので意外な感じがしたが、それだけ大変な世界なのだろう。