天王寺動物園でも、同年の10月から殺処分が始まった。紙芝居には、そのときの様子が記されている。

《銃で殺せば、街の人たちに気づかれてしまいます。「硝酸ストリキニーネ」という毒薬をエサに入れ、それを食べさせて殺すこととなりました。おなかのすいたライオンやトラたちは、久しぶりに見た肉を喜んで食べたあと、苦しみながら死にました。

 ツキノワグマは一回の毒では死なず、毒入りのエサを三回食べたあと、苦しみながら24時間後に死にました。でも原さんの育てたヒョウだけは、毒入りのエサを食べようとせず、すぐに吐き出しました。原さんが子供のように育てたかわいいヒョウ。やせて弱りながらも、必死に生きようとしています。でも、殺さなくてはならないのです》

チンパンジーには軍服を着させて

 毒入りのエサを食べない賢いヒョウは、仕方なくロープで首を絞めて殺すことに。

「原さんは、ほかの人に殺されるくらいならと、自分の手で殺すことを決意しました。ヒョウは、ロープを持って近づく原さんにうれしそうに甘え、首にロープを巻かれてもおとなしくしていたそうです。でも原さんは結局、たまらずに檻を飛び出してしまいます。ヒョウはやむをえず、ほかの飼育員によって処分されました」

 原さんとヒョウの物語は、決して忘れてはいけない出来事として、大阪の子どもたちに語り継がれている。天王寺動物園では、府内の小学校などで『戦時中の動物園』の講話を行っている。悲しい出来事が二度と繰り返されないよう、願いを込めてのことだが、いま再び、遠く離れたウクライナで、人間や動物たちの安全が脅かされている。

「福岡の大牟田市動物園が、ウクライナの動物園関係者にリモートインタビューを行いました。企画展でその動画を上映していますが、非常に危険な状況の園もあります」

飼育員の原さんと、彼に懐いていたヒョウ。絞殺されたヒョウは、すべての爪を立てて息絶えたという
飼育員の原さんと、彼に懐いていたヒョウ。絞殺されたヒョウは、すべての爪を立てて息絶えたという
【写真】軍からの命令で絞殺されてしまったヒョウと、可愛がっていた飼育員

 ウクライナ北東部の都市・ハルキウの動物園『フェルドマン・エコパーク』では、ロシア軍による攻撃で園内の施設や檻が破壊された。動物たちは安楽死を検討されていたが、現状を知った国内外から支援が寄せられ、紛争地域外へ動物たちを避難輸送させるための資金が集まったという。ただし、国内には度重なる爆撃を受けた動物園がほかにもあり、飼育員らの負傷・死亡も報告されている。

「天王寺動物園では、結局26頭もの動物が殺処分の犠牲になりました。殺処分にはならなかったものの、人気者だったチンパンジーも軍服を着せられ、戦意高揚のために利用されました。何も知らない動物たちを戦争に巻き込むのは、本当に悲しいことです」

 終戦から77年目の夏。世界では、また同じような悲劇が起こっている。他人事ではなく自分のこととして、いま一度平和について真剣に考える必要がある。