表の斉藤由貴、裏の富田靖子

 '90年代に入るとデビュー作の爽やか路線からはシフトチェンジしていく。

「彼女の持つ影の魅力が生かされる作品を選び、脇役で存在感を示すポジションに変わっていったように思います。私が彼女の作品で印象に残っているのは'91年のTBS系の東芝日曜劇場・単発ドラマ『秋・定年十年目の…』です。

 小林桂樹さん演ずる定年後の男性が俳句教室に通い、その先で恋してしまう若い女性生徒役が富田靖子さんでした。結局、若い女性生徒の方はそんなつもりはなく小林桂樹さんが振られるのですが、彼女が持っている天然の小悪魔感が生かされていた。

 私はこのような女優は“表の斉藤由貴、裏の富田靖子”と思っているんです。女の情念系を演じさせたら右に出るものはいない」(宝泉さん)

 '95年には香港と共同制作した映画『南京の基督』で娼婦を演じ大胆なヌードを披露。この作品で東京国際映画祭 最優秀主演女優賞を受賞した。

 舞台にも精力的に出演するようになり、私生活では若き日の筧利夫さんや堺雅人さんとの熱愛が報じられたことも。'06年6月にダンスインストラクターの男性と結婚。女児を出産している。

「結婚して出産をしたことで彼女の持つ” 妖気”が作品で消化されるようになった。それまでは彼女自身、自分の” 妖気”を役として消化しきれずに持て余していたように思います。

 '15年放送の近年ではNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』で炭鉱夫の親切な妻として、'19年放送の『スカーレット』ではヒロイン戸田恵梨香さんのおっとりとした母親役を演じていますが、どこか不穏さを感じさせる。

 結局最後までいい人役だったのですが、何かあるぞと思わせる雰囲気が彼女にはあるんですよね」(宝泉さん)

 大ヒットドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』('16年TBS系)でも新垣結衣の母親役、『私の家政婦ナギサさん』('20年TBS系)では多部未華子の良き上司役、『未来への10カウント』('22年テレビ朝日系)では木村拓哉の良き理解者的な教師役を演じ、その妖気は封印。

「'00年代前半くらいまではメインよりも目立ってしまいがちなバイプレーヤーでしたが、抑えることができるようになりましたね。普通のコミカルな役もでき、いるとその作品に厚みが出る女優に成長した。

 近年ではそんな意味で“富田靖子さんの無駄遣い”も気になりますが、私はもし『家政婦は見た!』をリメイクするなら主演は富田靖子さんが適任だと思ってるんです。情念系の女優の本領発揮して欲しいです」

『純愛ディソナンス』は物語も終盤に近付いた。怪演女優・富田靖子の本領発揮が期待される。

お話しを伺ったのは……宝泉薫(ほうせん・かおる)芸能評論家。アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)