外食先でも、親子で同じメニューを
通常、嚥下障がい児と外食する場合、介護用レトルト食品を持参するか、ミキサーを持ち歩くことになる。
注文した料理をお店の席でミキサーにかけることは、なかなか勇気がいるという。
「きれいに盛りつけされているので、ミキサーで形状を変えるとき申し訳ない気持ちになる。それにミキサーの音が目立つんです。近くの席の小学生に“うわ、ゲロみたい”と言われて、心が折れたこともあります。悪気がないとわかっていても悲しい」
外食先でも、親子で同じメニューを食べたい──これは嚥下障がい児を持つ多くのママたちの夢だ。
玲子さんと共同代表の加藤さくらさんは、その願いを叶えるため、『スープストックトーキョー』にアプローチ。
今年、東京・ルミネ立川店限定で「咀嚼配慮食サービス」がスタートした。嚥下障がい児や高齢者など噛むことに困難を感じる方も食べられるメニューの展開、具材の細かさを記したメニュー表の作成、具材をつぶす茶こし器などの貸し出しも行っている。
玲子さんたち『スナック都ろ美』が今、力を入れているのは、“インクルーシブフード(排除しない食)”を増やすこと。とろみ剤やミキサーで調整せずに、嚥下障害があっても、健常でも食べられる食品のことだ。美味しそうな見た目のまま、食べられることにもこだわっている。
「『サイゼリヤ』のミラノ風ドリアやブロッコリーのくたくた煮、長崎の『なめらかすてら』とか、そのままでも娘が食べられるメニューって実はあるんです。もっと認知されることで、そういう食品が増えることを願っています」
高齢になれば、誰でも嚥下機能が低下する可能性を持つ。そのとき、インクルーシブフードが世にあふれていたら──。
「食べる喜びが人に生きる力をもたらす」と人一倍実感してきた玲子さん。専門家や企業など多くの人を巻き込んだ挑戦は始まったばかりだ。
「同じ釜のものを、お鍋を一緒につつく感じで、娘と食べられたら幸せですね」
玲子さんの横で、楓音ちゃんがプイッと背を向ける。
「あれ、のんちゃん! ママの話つまらなかった? いやだ~」
そう言って「こしょこしょこしょ~♪」と身体をくすぐると、楓音ちゃんがキャッキャッと口を大きく開けて笑う。顔を寄せる玲子さんも声を上げて笑っていた。