食物成分を肌に使用したことで、甚大な被害を生み出した“事件”がある。『茶のしずく石けん』。2004年から2010年までの間に、 4,650万個が467万人に販売された石けんで、数字的にいえば“大ヒット商品”だ。しかし、この石けんが、多くの被害者を生み出し、社会問題となった。『茶のしずく石けん事件』と呼ばれる。“事件”の流れを以下にまとめる(※5-8)。
2009年頃から、不思議な小麦アレルギーの患者が急激に増えた。その特徴は、
・もともとはどの患者も小麦アレルギーではなかった。
・20-60歳代の女性で、似た症状の患者が多かった。
・「小麦を食べるとまぶたが腫れる」「顔が痒くなる」など、通常の小麦アレルギー患者よりも症状が目立って出ていた。
・患者の共通点として『茶のしずく石けん』を使い始めてから症状が出てきていた。
『茶のしずく石けん』は、保湿機能などを与える目的で『グルパール 19S (加水分解コムギ末) 』という小麦に由来するタンパク質が配合されていた。そして実際に詳しく検査したところ、『茶のしずく石けん』使用後に小麦アレルギーになった人は、普通の小麦アレルギーの人とは異なり、『グルパール 19S』に対するアレルギーを持っていることがわかった。
有名人やインフルエンサーが拡散
厚生労働省は2010年10月、『グルパール 19S』など加水分解コムギ末という成分を含む医薬部外品や化粧品について「小麦由来成分が含まれること」の表示を義務付けた。翌2011年5月、メーカーが『茶のしずく石けん』を自主回収することを決定した。
※今現在発売されている『茶のしずく石けん』は、当時の製品とは異なり小麦由来の成分を含んでいない。
「新たな被害者の発生は止まりましたが、その後の調査で2,111人もの消費者が小麦アレルギーになってしまったことが確認されました。症状としてはアナフィラキシーショックや呼吸困難など、命に関わる重い例も発生しています。まさか小麦成分入りの石けんを使っていただけで命を落とす危険性があるアレルギーになるとは想像もしていなかったでしょう」
しかし、今でも冒頭のきゅうりなどさまざまな“食べ物パック”が有名人やインフルエンサーによって“効く”“肌に良い”と拡散され続けている。YouTubeで、“小麦粉パック”、“はちみつパック”、“緑茶パック”など「食べ物」+「パック」で検索すると多数の動画がヒットする。
「直接食べ物を肌に塗ることはもちろん、食物成分配合のスキンケア製品でも先程申し上げたデメリットがあり、怖いものです。たとえば、ピーナッツオイルを含むスキンケア製品を使っていた子供がピーナッツアレルギーを多く発症している(※9)、魚由来のコラーゲンを配合した保湿剤を使っていた30代女性がその後にコラーゲン配合のサプリメントを摂取してアナフィラキシーを起こした(※10)などの報告があります。一方、食物成分配合のスキンケア製品に美容面などで何らかのメリットがあるのかというと、実際には医学的に証明されたメリットは存在しません。
今はSNS時代ですからYouTuberやインフルエンサーが言っていることを反射的に良いと思い、“いいね”することは気持ちとしては非常にわかります。しかし、医療情報は誤った情報を知り、試した際のデメリットは甚大になりかねない。一度冷静に“本当に大丈夫なのか”を考えてほしいです。また健康情報というのは“バズりやすい”案件かと思います。インフルエンサーの方々は何かあったときに責任を取れるわけではないですし、自分の発信がもしかしたら自分のファンを傷つけてしまうこともあるということを意識して発信してほしいです。有名人の方のスキンケア方法を信じて試した結果、悪化して病院に来るというケースは少なくありません」