東京を去る前に、1度きりの大人の関係にするつもりだった。ところが麻由美さんの心と身体に火がついてしまったのだ。
「夫とは数年前から、1年に数えるほどしかセックスをしていなかったので、急に燃え上がってしまったんです。彼のことが欲しくてたまらなかった」
恋しくなるたび、彼にも自分にも家庭があると自分に言い聞かせ、不倫の後につらい別れを経験した友達のことを思い出した麻由美さん。
「でも会いたい気持ちが抑えられなくて……。東京を離れる少し前に、彼から“もう1度会いたい”と連絡があって。どうしたらいいか困ってしまったんです。そこで不倫を経験した友達に相談することにしました。彼女ならきっと止めてくれるだろうと」
ところが予想に反して、友達から「自分の気持ちのとおりに行動してみたら。人生は1度きりなんだから」との言葉が。
「友達に背中を押された私は、流れに従おうと思いました。彼にすぐに連絡をしてその日のうちに会うと、彼は地方赴任が終わったら一緒に暮らそうと言ってくれて……。彼は妻と、私も夫と別れて独身に戻ってから結婚しようって」
不倫を隠して夫に離婚を持ちかけた
地方赴任は3年間。その間、麻由美さんは夫と話し合って離婚をしようと決めた。だが、いざ彼のことを話そうとすると、“大反対される”と直感のようなものが働いたという。
「私が夫以外の男性を愛していることがわかってしまうと、プライドの高い夫は離婚してくれないでしょう。そこで講師としてキャリアを積みたいから離婚してほしいと離婚に同意を求めました。夫が承諾しなかったので、私の判を押した離婚届を置いて家を出ました」
友達の家に間借りしながら、夫の返事を待っていた。ところが夫は“好きな仕事と両立してもいいので、離婚に同意しない”と断固拒絶の姿勢を伝えてきた。麻由美さんは離婚訴訟などで泥沼化することを覚悟したのだが─。
「その半年後、手のひらを返したように、夫が離婚に応じてきたんです。“今、会社を手伝ってくれる人と結婚したい”って。肩透かしをくらいましたが、その女性に感謝しています」
離婚後、麻由美さんが彼の赴任先のワンルームマンションを訪れて、2人の将来について話し合った。
「彼には専業主婦の妻と小学生と中学生の息子がいました。妻は働きたくないため、慰謝料のほか毎月の生活費と養育費を要求されるだろうと。でも、そのために稼ぐから心配しないで、と言ってくれた彼の頼もしさに感動しました。“私も働くからひとりで背負い込まないで”と労ると、抱きしめられました」