2012年、BBCのラジオやテレビの人気司会者ジミー・サビルの加害行為が明るみに出た。
サビルは2011年に亡くなったが、1970年代、80年代に国民的な支持を受ける有名人として活躍した。慈善事業に熱心であったために、その貢献を評価され、1988年、エリザベス女王から「サー」の称号まで得ている。しかし、死後、障害を持つ子どもたちのほかに大量の人数の女性たちに性的加害行為を行っていたことがBBCや民放ITVの調査で発覚した。
イギリスの司法には何世紀も前から「推定無罪」、つまり「有罪判断が下るまでは、無罪」という原則があるのだが、性的犯罪・疑惑については、この原則がなぜかどこかに"消えて"しまう。
疑惑報道が出ると、公人や芸能人はそのキャリア、および個人生活が乱され、時によっては破壊され、職を失う場合もある。疑惑報道で打撃を受けた芸能人の1人が、往年のイギリスの歌手クリフ・リチャードだ。
エンタメ業界が性的疑惑に過敏なワケ
2014年、BBCは警察がリチャードを性的加害行為の容疑者として捜査しているという文脈で、彼の自宅に入る捜査官らの様子を、ヘリコプターを使って上空から大規模な取材を敢行。
彼のような超著名芸能人であっても、性的犯罪の疑惑があれば、犯人視報道になる。しかし、リチャードは逮捕も起訴もされずじまいで、BBCは「プライバシーの侵害」で訴えられた。2019年、リチャード側が勝訴した。
性的疑惑については超過敏な雰囲気の背景には、サビルによる犯罪行為を見逃していたことへの反省、近年の#MeToo運動、女性の社会的地位の上昇、あらゆる人が犠牲者になり得る性犯罪についての認識の高まり、児童に対する性犯罪を忌み嫌うなどのいくつもの要素が絡み合う。