本当の意味で歌手がライフワークに
「みゆきさんの『夜会』への出演オファーは何の前触れもなく事務所に届いたんです。高校生のとき以来、あまりお付き合いがあったわけでもなかったので本当に驚きました。セリフもダンスもあったので、私にとってはほんとに清水の舞台から飛び降りる気持ちで。新しいことに挑戦しなくても生きていけるし、私にとって挑戦するにしては気の遠くなるようなことばかりで、かなり動揺しました」
『夜会』は中島が'89年からスタートさせたオリジナルの舞台表現。“コンサートとも芝居ともミュージカルとも称しがたいなにか”と中島本人が語るように、自らの創造性を存分に発揮した人気の舞台だ。
「みゆきさんのクリエイティブな部分に携われることはとても魅力的でしたね。彼女がこれまで大切に積み上げてきたものに乗っかるわけですから、そんな貴重な経験はなかなかできるものではありません。1か月に20本も公演を行って、オフの日はひたすら身体のリカバリーというような状況で、ボロボロになりましたが忘れられない思い出になっています」
中島との共演から3年がたち、渡辺はこの9月に『夜会』の曲をカバーしたデビュー45周年記念シングルを発売する。『夜会』の劇中で使用されている曲はこれまでリリースされたことがなく、ファンからは驚きの声も上がった。
「今回の記念盤のプロデューサーでもある瀬尾一三さんが、“渡辺さんが言えば、みゆきさんが『夜会』の歌をフルコーラスにしてくれるかもしれない”って言ってくれたことがあって。ただ、お忙しい方ですし“ほんとにみゆきさんがOKしてくれるかな”という不安もありました。
まあ本人に聞いてみないとということで、昨年の春に打診したら快く引き受けてくださったんです。ご本人からお手紙をいただいたこともあって、責任をもって歌わなければと強く思っています」
デビューから45年間、走り続けてきた彼女はこの先も歌うことを究めていく。
「還暦過ぎたら少し休みたいなって思ってたんですけど、そうはいかなかった(笑)。でも、ここにきて本当の意味で歌手がライフワークになった気がします。先が見えない世の中ですが、少しでもみなさんの力になるような歌を届けられればと思います」
“迷い道”を抜けた渡辺は、これからも翔び続けていく。