AV新法の経緯と問題の「1か月、4か月ルール」

AV新法(AV出演被害防止・救済法)※男女共同参画局HPより
AV新法(AV出演被害防止・救済法)※男女共同参画局HPより
【写真】逮捕された同人AVカップル『RYO&YUU』のラブラブ画像

AV新法」の発端は、2022年4月1日からスタートした成人年齢の引き下げだった。新たに成人となった18歳と19歳がAVに出演した場合、従来の未成年者取消権(※)が行使できなくなり、甘言や強要による出演被害の対象になることをおそれた人権団体やAV出演被害者支援団体などが、「高校生AV出演解禁を止めて」などと国会や与野党などに働きかけたのが契機である。

※民法に規定されている「未成年者が親の同意を得ずに契約した場合、原則として契約を取り消すことができる」権利。

 3月28日の国会質問で立憲民主党の塩村あやか参議院議員に取り上げられてから、与野党内で一気に議論が進み、4月上旬には「AV出演被害の防止」を目的とする議員立法を成立させる方向に進んだ。議論の途中で18歳・19歳の未成年者取消権復活は法的に困難とされ、全年齢・全性別の出演被害者の保護という流れで加速した。

AV新法」の主な内容は、次の8点だ。

(1) AVの出演契約締結時には、契約書を交付して契約内容について説明する。
(2) 契約してから1か月は撮影してはならない
(3) 撮影時には出演者の安全を確保する
(4) 撮影や嫌な行為は断ることができる
(5) 公表前に事前に撮影された映像を確認できる
(6) すべての撮影終了後から4か月は公表してはならない
(7) 撮影時に同意していても、公表から1年間(施行後2年間は経過措置として「2年間」)は、性別・年齢を問わず、無条件に契約を解除できる
(8) 契約がないのに公表されている場合や、契約の取消・解除をした場合は、販売や配信の停止などを請求できる

AV出演の強要」や「不本意な出演」を避ける被害者救済に力点が置かれすぎていて、かなり片務的な規制になっている。特に(2)契約から1か月の撮影禁止、(4)撮影から4カ月の公開禁止は、多くのAV関係者を苦しめた。

「現場は大きく混乱しましたよ。契約書の作り直し、取り直しなどの対応に追われ、施行からほぼ1か月は撮影ができませんでした」

 こう話すのは、AVメーカー社員のBさんである。比較的、規模の大きなAVメーカーで、プロモーションなどを担当している。AV業界で働いて10年になる。

「少しずつ対応は進んで、ようやく撮影は動き出しましたが、4か月ルールはきつい。その間、広告なども打てないんですから。また、特に新人女優の場合、公表から1年の無条件契約解除ルールが心配です。契約解除時のルール作りをプロダクションと進めていますが、メーカーとしては起用しにくくなりますし、プロダクションの負荷が大きいです。1年間、しばらくは2年間のアフターケアが必要になりますが、数本撮影したら女優が辞めてしまう、連絡も取れないということがざらにありますから…」

 Bさんの会社は比較的余力があるというが、廃業せざるを得ない小規模のメーカー・プロダクションが増えてくるのではと話す。

「小さなメーカーやプロダクションにはかなりの痛手で、資金繰りが厳しくなります。急な体調不良などで女優が撮影日に来られなくなっても女優の差し替えができず撮影ができないという縛りもきつい。AV事業者は銀行からの融資は受けられませんから、すでに大手メーカーやプロダクションに資金援助を仰ぐところも出始めています。廃業や統合が進むのではないでしょうか。また、事務作業の量が膨大になるため、人手が少ないところはさらにきつい。AV業界が大きなダメージを受け、業界が縮小することは間違いないでしょう」

 また、職業としてAV女優を選んでいる側にとっても大きなダメージだった。

「単体女優の友人は、専業だからしばらく収入が丸々ゼロ。とてもきついと思います。女優の保護は分かりますけど、私たちには責任能力や判断能力がないと言われているみたいで、内心複雑です」(前出・Aさん)