森岡監督はバイトをしっかりやって、収入もあったため、

「すごくいいアパートに住んでいましたね。テレビもビデオデッキもあって。こっちは風呂なし、トイレ共同の四畳半。夏なんて暑くて寝られないのに、森岡くんは“エアコンで寒い”なんてぜいたくを言ってた。

 よく入り浸って、映画がどうのこうのと話をしていましたね。今回、初めて演出してもらったんですが、やっぱりお互い照れ臭かったですね(笑)」

 ユーモラスな謙遜の嵐に、その人柄がにじみ出る。

 舞台は九州の寂れた炭鉱の街。実家の理髪店を継ぎ、細々と続けていた向田康彦(高橋克実)のもとに突然、東京から息子(白洲迅)が戻って“店を継ぐ”と言い出す。親子の葛藤、夢への挫折、田舎ならではの人との距離感。さらには過疎化、少子高齢化、結婚難、介護……など、どの地方も抱える問題がこの作品の中にも。

高校卒業の翌日に東京に行こうとすると

「言ってしまえば、どんなところでも身近にある話。ですが、人間としてのあるべき姿や、こう生きていってもいいんだよなぁ、ということが押しつけがましくなく、やさしく投げかけられていて、どの世代の方が見ても刺さるところが必ずあると思います。ご覧になったみなさんそれぞれに感じ取っていただけたらうれしいですね

 物語はいくつものエピソードが折り重なって展開していく。その中では若き日の康彦の、東京での挫折もあらわに。

「すごく共感します。やっぱり、都会に憧れるというのは、地方にいればみんなありますよね。僕なんかはその典型でした(笑)。

 高校3年までは(地元の)新潟にいたけど、卒業の翌日には東京に行こうと思っていましたから。卒業前に親ともめるとその都度、最終の夜行に乗るために駅に行ってはオヤジに連れ戻される……の繰り返し(笑)」

 東京に行けば何かが変わる、という意識は強かったと振り返る。

「とにかく東京に行くためには大学受験だ、と。高校3年で急に決めたところで受かるわけがない。最初から落ちて、予備校に行こうと決めていました。親は見透かしていたんじゃないかなぁ」