店舗は海の見える高台に、元そば店の居抜き物件を見つけ、地元の大学生たちの助けも借りてリフォーム。家探しの段階で緊急事態宣言が出て身動きがとれなくなった際も、地元の人たちが物件探しや引っ越しを手伝ってくれた。
「おかげで住みたいと思う家が見つかり、近所の人たちも一緒に2回にわたって横浜と真鶴を往復し、家財道具を全部運んでくれた。本当に感謝しています」と伊東さん。
真鶴を舞台にした映画も製作中
『伊藤商店』という店の名は、夫婦でやっていく決意を込め本名の「伊藤」からとった。スープは、伊東さんが「日本一おいしい」と太鼓判を押す地元の干物店の鯖の骨をベースに、季節に応じてとんこつや鶏のスープを合わせる。メニューは四季や月ごとに変更し、気候にも配慮しながら考案しているそうだ。
「普通のラーメン店なら、店主のこだわりでスープを作ると思いますが、僕はただお客さんを楽しませたいだけなので、スープもメニューもコロコロ変えちゃう。町には飲食店が少ないので、みんなの外食をもっと楽しめるようにしたいという思いもあります」
伊東さんは早朝に起きてスープを仕込み、夜は早く寝るという健康的な生活。
「スーパーもコンビニも遠くなりましたが、昔からの物々交換が息づく地元では、野菜とチャーシュー、サワラとホタテなど、新鮮な食材が交換で手に入る。かえって食生活は豊かになりました」
こうしてラーメン店に立ちつつも、芸能の仕事も続ける伊東さん。
「1年目は真鶴の地に足をつけるため、知り合いの監督の映画に出るのみに。2年目の今年は1か月半だけ店を閉めて舞台に出演しました。役者の仕事は来年半ばまで決まっていますが、短期で撮影できる役に絞っています」と、あくまで自分でラーメンを作りながら、芸能の仕事も続けていくというスタンスだ。
「僕は役者として勉強すべきことをラーメン店で教えてもらっている。ラーメンを食べたお客さんの笑顔から喜びをもらうことで、芝居にお返しできることがあるのではないかと。今は1つの仕事にしがみつく時代ではないと思うので、多方面で仕事をしながら、それぞれエンタメとして成立させていきたいと思っています」
これからは、お世話になった真鶴に恩返ししたい、と伊東さん。
「まずは町のシャッター街の、元鮮魚店を人の集まる場所にしたい。1階は駄菓子店にし、真鶴のオリジナルグッズも作って販売します。2階は町の人が特技を教える教室に。住民が好きなことを学べて、教える人にはお金が入る。そんなしくみをつくりたい」
さらにアカデミーも構想中だ。
「地元の子どもたちが、東京や横浜に出なくても学べるよう、僕の芝居や飲食店のスキル、奥さんのエステの技術、僕の弟でキックボクサー伊藤隆のスポーツの技術などを教える施設もつくりたい。真鶴を舞台にした映画も製作中。土地の魅力を発信しながら、地元の人たちに夢を持ってもらいたい。これからもみんなで真鶴を盛り上げていきたいです」
取材・文/野中真規子