椎名林檎はデビュー以降、センシティブな案件の間際をスレスレで通過するような演出を続けてきた。それは歌詞も同様だ。しかし、ときにそれは人によってはスレスレとは思われない。超えるべきではない線を超えている、と。
「'14年のサッカーワールドカップブラジル大会のNHK番組で使用された楽曲『NIPPON』は、戦争を想起させる、右翼的だと批判を集めました。最初に書き上げた歌詞はNHK側によって“放送にふさわしくない”と修正を依頼されたそうです」(同・レコード会社関係者)
生命についての理解を語っていたが…
具体的な批判は以下のようなものだ。
・歌詞の“混じり気のない気高い青”が、『純血主義』を想起させる。
・“不意に接近している淡い死の匂い”など、死を連想させるものは応援歌にふさわしくない
・特攻隊を思わせるPV
冒頭は'14年に雑誌『SWITCH』にて、楽曲『NIPPON』についての批判に対して反論したインタビューでの彼女の弁だ。まず批判に対し椎名は《貧しいなあと。》とバッサリ。“死”については、《死の匂いを感じる瞬間は日常にあると思います。だって死は生と同じく、みんなおそろいのものだから。我々が必ず迎える局面を過剰に忌み嫌いすぎ。》とした。
そして批判をしてきた人たちに対し、《『お耳を汚して失礼しました。毎度あり!』って感じですよ》《ゲテモノに見えるんだったら、わざわざお越しいただかなくて結構ですもん》と伝えている。
同インタビューで椎名は“他者”について次のように語っている。
《三十歳を過ぎた頃から、自分の生命についての理解であり、他者の生命との関係性やその軋轢への理解が自然と深まってきたように思います。》
“他者の生命との関係性やその軋轢”を理解しているはずなのに、他者の生命に密接な関係のある赤十字やヘルプマークに酷似したグッズを製作するのか。
インタビューは以下の言葉で締められている。
《自分がやったことは忘れちゃうの。でも人からやられたことは忘れません》
彼女自身、何か“狙い”があったのかもしれないが、困る人がいる以上、今回は“自分がやったこと”は忘れてはならないだろう。