スマホを探して3000歩
綾小路きみまろは生き方がロックだ。コロナ禍で、ライブができない中、ただ指をくわえて見ているだけにとどまらず、なんと70歳でYouTubeチャンネルを開設。そこでは、Tシャツ姿に、ベースボールキャップをかぶり、自家農園で野菜を育てたり、断捨離に挑んだりするリアルな70代の姿が映し出されている。
趣味で集めた膨大な数の骨董品を処分する姿や、料理を作ろうとフードプロセッサーの使い方に四苦八苦する姿は、“中高年のアイドル・綾小路きみまろ”ではなく、“素の綾小路きみまろ”そのもの。
「あの世に持っていけませんからね。お金も骨董もカツラも。そういうことを悟るような年齢になりました(笑)。でもね、決して悲観するんじゃなくて、ちょっとした自分の喜劇として楽しんでいるつもりなんです」
物忘れがひどくなり、かつてのように頭の回転も速くなくなったと打ち明ける。
「スマホが見つからないときは歩数計を付けたらいいんです。母を訪ねて……じゃないけど、スマホを探して3000歩。物忘れだって運動になるんです。衰えるということは、未知との遭遇。未知という意味では、私にとってはYouTubeも老いもコロナ禍も同じ。落胆するんじゃなくて、笑いに変えられるように。70代は、まだまだそれができるんです」
きみまろさんは、まるで自らが実験台となって、“老い”と向き合っているかのようだ。その経験が、新しい漫談として昇華する日が待ち遠しい。
「ケーシー高峰さん、牧伸二さんがあの世へ行って、気がつくと私は最高齢の漫談家になっちゃった……絶滅危惧種。なんとか私は昭和平成令和を生き抜いたわけですけど、80歳までできるんでしょうか」
そして、芸の道を歩もうとする若い世代には、こんなアドバイスも。
「人がやってないようなことを自分で考え、草分け的な存在にならないといけない。伝統芸能の世界とは違い、ピン芸人は売れるのが難しいと思います。やっぱりマイク一本で1時間以上舞台の上で勝負できるピン芸人が出てきてほしいという願いもあります。そういう人が出てくるまで、私もやれる限りやり続けたいですね」
ブレイクしたのが2002年。あれから40年─。そう漫談をする卒寿を越えた綾小路きみまろの姿を見てみたい。
<取材・文/我妻弘崇>