お金の無心を続ける母との“訣別”へ
親族との関わりが希薄ということが認められ、やっとのことで生活保護を受給できるようになった絵里香さん。ところがさらなる試練が訪れる。
「仕事が決まり、やっと自立できると喜んでいたときに、子宮がんが判明したんです。ステージ2でした。手術が決まったので母に知らせましたが病気を気遣う言葉もなく、保険の受取人の名義を母親に変更せよ、と命じるだけのはがきがきました」
絵里香さんが突発性難聴を患ったとき、病院に預けていた入院保証金を根こそぎ持っていった母親。がんだとわかったときも、絵里香さん名義の生命保険の満期が近かったために、絵里香さんが満期時に受け取れる全額を自分のものにしようとしていた。また、追い打ちをかけるように妹から、
「お金を母が支払ってきているのだから、名義変えするのは当たり前」
という母親の主張と同じ内容の手紙がきたという。
「涙があふれてきました。満期で受け取れる保険金を自立のために使い、保護受給を停止するつもりだったんです。だから、これだけは譲れませんでした」
ところが母から保険金を渡せという電話が1日に50件以上、それが1週間続き、絵里香さんは恐怖を覚えた。
「生活保護の担当者に電話で相談しました。すると“あなたの将来のためにお母さんと距離を置くほうがいいと私は思うわ”と背中を押してくれて。光が見えてきました」
子宮がんの治療が終了し、経過観察になり、さらに絵里香さんを孤独から救ったのは、里親会から譲り受けた猫だった。
「仕事が見つかり、生活保護受給が終わって、新しいアパートも見つかりました。一緒に住む猫もいますし(笑)。でも賃貸契約時に連帯保証人になってくれる親族がいないため、家賃保証会社の審査を受け、やっと引っ越しができました」
さまざまな事情で家を借りられない人にも、救いの制度があることを知った絵里香さん。感慨深くこう思う。
「最近、母は病んでいるのだと達観できるようになりました。今は妹のことが心配です」
母から罵倒されることのない、平穏な日々を取り戻した絵里香さん。親子は離れられないという宿命があるが、離れて暮らすほうが互いに幸せだということもある。
取材・文/夏目かをる