デビュー後間もない1976年にラジオ『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のパーソナリティーに抜擢され、'80年代にはトーク&コントバラエティー『今夜は最高!』(日本テレビ系)や『タモリ倶楽部』もスタート。こうした番組には、即興芸とはまた異なるインテリジェンスなタモリの魅力があふれていた。
「もちろん下ネタなども多くありましたが、ジャズの演奏を披露したり、哲学的なトークを展開したりと、タモリさんの多才さがお茶の間に認知されていきました。現在でも『ブラタモリ』(NHK総合)などで顕著に見られるように教養の深さや趣味人としての側面は、タモリさんの持ち味のひとつだと思います」
ニッチな世界に面白さを見いだし、それを知性で笑いに変えるセンスは『タモリ倶楽部』にも存分に表れている。
「タモリさんが何かを面白がっている姿を見たい、その独特な視点をもっと知りたいという需要があるのも、タモリさんならではという気がします。そういった視聴者の知的欲求をくすぐるという点でポストタモリ的な存在を考えれば、いとうせいこうさんやみうらじゅんさんなどは“タモリ的な魅力”を持っているようにも思います」
タモリを“昼の顔”として起用し、国民的キャラクターに押し上げた『~笑っていいとも!』や『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で数多くのタレント・アーティストと対峙してきた“MCタモリ”の力量については、多くの人が知るところだ。
脱力感が生み出す不思議な空間
「グイグイと番組を回していく司会者とは異なり、タモリさんはいい意味で力の抜けた受け身の天才。どんなゲストに対しても気負わず、時に沈黙が訪れることもいとわない不思議な空気感があります。『~いいとも!』では、各曜日のレギュラー陣が起こすドタバタを、時に傍観者的な立ち位置から楽しそうに眺めている姿も印象的でした」
こういった司会ぶりは、タモリとともにお笑いBIG3のひとりに挙げられ、細かなボケを盛り込みながら笑いの空気をグイグイとつくり上げていく明石家さんまとは対極にあるともいえるだろう。
「無理に自分から空気を変えようとせず、その場の流れをうまく生かして周りを引き立てるMCぶりは、タモリさんならではのもの。そういった脱力感が許される雰囲気づくりがうまいという意味で、今の芸人で考えると、おぎやはぎさんにはタモリさんに通じるものがありそうです」
脱力系MCという点では、ふかわりょうもポストタモリに近い存在といえるかもしれない。ラジオ番組などで自ら「タモリイズムの継承者」を標榜しているように、力の抜けた司会ぶりにはタモリを彷彿とさせる場面も多々ある。
「番組ごとにMCのやり方を柔軟に変えてみせるのもタモリさんのすごさ。近年では、報道番組『タモリステーション』(テレビ朝日系)で“ほとんど発言をしない”という姿を見せたことも話題になりました。
一方で、状況に応じて急にノリノリになる姿を見せたり、思わぬハプニングなどが起きたときに的確なアドリブ力を見せつけるなど、司会者タモリという存在は一様には語れません。本当の意味で“司会者タモリ”のすべてを引き継ぐような人は現れないのではないかとも思いますね」