彼女はとっても面倒見がよくて世話焼き。俳優座養成所の仲間たちを集めてよく一緒に遊んでいた。あるとき、俳優座養成所の男の子たちを私たちのアパートに呼んで、2人でカレーライスを作ったことがあった。


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共に青春を過ごした大山のぶ代さん

共に青春を過ごした大山のぶ代さん

【写真】美しすぎる!20代の頃の冨士眞奈美さん

「みんな食べなよ~」なんて振る舞い始めたはいいものの、口にした男の子たち全員が首をかしげている。ふと1人の男の子が、「なんかジャリジャリしない?」と言うと、全員がうなずき出した。

 私もひと口食べてみると、たしかにジャリジャリする。新食感というには、ちょっとジャリジャリすぎるのよね。ペコに、「何か隠し味でも入れたの」って聞くと、彼女はこともなげに「何も入れてないわよ。あなたこそ何か入れたの?」「私? このうどん粉を入れたぐらいよ」と指をさした先には、うどん粉ではなくよく見たらセメントの袋が。

「これってセメントじゃない!」と言うと、「そうよ。前のアパートのトイレの床を踏み抜きそうだったからこれで修繕したのよ。残りをもったいないから持ってきたの」とペコ。

 前代未聞よね、セメント入りのカレーなんて。彼らが帰った後、ペコは笑いながら「まさかセメントを料理に使うなんて」と言ってきたんだけど、私のせいなのか、ペコのせいなのか。セメントなんて取っておかないでよ。

 ペコって、世話焼きのうえに何ごとにも一生懸命なのよ。それにしても、今から60年以上前とはいえ、ボロアパートのトイレの床を若い女の子がセメントで修繕していた、なんてね。

冨士眞奈美(ふじ・まなみ)●静岡県生まれ。県立三島北高校卒。1956年NHKテレビドラマ『この瞳』で主演デビュー。1957年にはNHKの専属第1号に。俳優座付属養成所卒。俳人、作家としても知られ、句集をはじめ著書多数。

〈構成/我妻弘崇〉