家には自分のものは何もない

店内で食べ放題の漬物や柚子胡椒はすべて手作り。1人で夜なべをして作る 写真提供/内田伸一郎
店内で食べ放題の漬物や柚子胡椒はすべて手作り。1人で夜なべをして作る 写真提供/内田伸一郎
【写真】朝4時に起きて仕込みを始めるという川原さん

 穏やかな笑顔で周りに人が絶えない川原さん。店には客のほか、近所の人たちも援助のため、使えそうな食材を手に集まってくる。

「家には自分のものは何もありません。そば屋もお客さんが持ってきてくれたものばっかりで始めたんです」

 食材や道具、人との縁……目の前のものに真摯に向き合ってきたその人柄は多くの人をひきつけてやまない。

 そば店のスタッフに「お金がないから十分なことはできない」と詫びる川原さんに、文句を言う人はいない。むしろ都合をつけては手伝いに来てくれるのだという。

「お店で働いてくれる人たちは、お客さんとじかに接して本当に大変な立場です。その人たちを守るのが私の仕事。もし失敗や失礼があっても、一生懸命してくれている人たちの過ちは、私の過ちです」