目撃者も防犯カメラの映像もないために、供述の信用性が焦点になった。一審では、上司が供述した内容が信用できないとして、「原告の意思に反して行われ、性的自由を侵害することは明らか」と認定した。しかし、「一回限りで継続性はないこと、職場での関係を利用したものではない」として、加納さんの一部勝訴だった。
「入社したころ、気分転換したいと上司からドライブに誘われました。そのとき、カラオケの個室やラブホテルに誘ってきましたが、断ったんです。すると、上司は抱きついてキスしようとしました。夫にも相談しましたが、入社間もない時期だったため、会社には言っていません。
判決では、(セクハラの)継続性の部分も、職場での上下関係の利用の部分も否定されましたがドライブ時にラブホに誘われた件があるので、継続性があるといえるのではないでしょうか。また、忘年会は上司が誘ってきた飲み会です。職場の上下関係を利用しているのではないでしょうか」(加納さん)
被害者の訴えは認められない現状
一審判決を不服として加納さんは控訴。しかし、二審判決では、一転、わいせつ行為そのものが認められなかった。裁判所は、入社後から性的な言動を受け、それを不快に感じていたのであれば、「上司との接触の機会を最小限にしようとするはず」などとして、加納さんの供述の信用性を疑った。
加納さんは裁判の理不尽さを感じ、SNSにも投稿した。
「一審判決後から、自分の中だけで消化できなくなったんです。それまでSNSをしていませんでしたが、やってみようと思ったんです。多くの人に共感をいただきました。
高裁判決では『触られた』以上のことを同僚に話していない、ということが不利な要因になっています。辱めにあったことを同僚に言わないことが不利になるなんて。これでは、セクハラ被害者の訴えは認められることが厳しいと思います」
二審の判決では、上司や会社側が主張する、「セクハラもパワハラもない。そのため、会社の対応は不当ではない」という内容が認められた。加納さんは最高裁に上告したが、棄却された。