度重なる試練と続く後遺症
「投げやりになることはなかったのですか?」と尋ねると、
「もちろんつらかったけれど、病気に遭遇してしまったんだから悩んでも仕方がない。先生も“くよくよしているとがん細胞が元気になる”っておっしゃっていたので、前向きでいようと心がけていました」
明るく強い。けれどもそんなポジティブさを試すかのように、試練は再び訪れる。
長男と長女は成人し、俳優として活動していた55歳のころ、腸閉塞を何度も繰り返していた。腹部がカチカチに硬くなって七転八倒するような痛みに襲われる。
「腹部の検査を繰り返した結果、盲腸の先にがんが見つかり切除する手術をしました」
幸いにも早期発見だったため2週間ほどで退院できたという。しかし、それから6年後の62歳で、4度目の告知を受ける。大腸がんだ。
「急きょ、開腹手術をして大腸を20cm切り、術後は集中治療室に入りました。ピピッというモニター音だけが響く薄暗い中でベッドに横たわり天井を見つめていると、“いいかげんにしてよ、神様!”って恨み言が口をついて出ましたね」
4度のがんを乗り越え、現在はすっかり元気を取り戻しているが、実は、後遺症が残っているそう。
「胃を切除したので今でもお腹はすかないです。また以前ほどではないですが、血糖値が不安定になるとフラフラになるので甘いものは手放せない。リンパ浮腫や婦人科の外科手術による排尿障害もあります。
がんは手術から5年治癒といわれますが、肉体的に元に戻ることは不可能。いったんがん患者となったなら、後遺症とも一生付き合わなければなりません。受け入れて、長く付き合っていくしかないんです」
最期まで自分の足で歩きたい
がんは2人に1人がかかる病気といわれているが、発症した者でなければわからない恐怖がある。4度も経験したにもかかわらず仁科さんに悲愴感はない。むしろ前向きなパワーに満ちている。元気の秘訣はなんなのだろう?
「強いて言えば、元気、陽気、やる気、強気、勇気の“5つの気”をモットーにしていることかしら」
陽気でいれば、元気が出てやる気も起きる。家でダラダラしたいなと思っても、ちょっとやる気を出して外出すれば、自然と陽気になって元気になる。がん細胞を撃退するために強気も大事。勇気は自分の出した結論に後悔しないで前に進むこと。そうすると新しい世界に踏み出せ、またやる気や元気も出るという。