町の印刷会社を救ったご当地カプセルトイ
もちろん、独自にご当地カプセルトイを作っている地域もある。
「今年8月の販売開始から現在まで累計5000個ほど売れています」
と語るのは、青森県のご当地カプセルトイ『青森のたんげ、めぇアクリルキーホルダー』を作るアサヒ印刷の藤田直樹さん。
「取引先だったイトーヨーカドー弘前店の店長さまから、地元を盛り上げたいので何かできませんかと相談を受けたことがきっかけでした」(藤田さん、以下同)
実は、アサヒ印刷にとってもこのオファーは九死に一生だったという。新型コロナが感染拡大したことで、新しい生活様式が浸透。政府や自治体は、オンラインを推奨した。
「私たちは印刷会社ですから、名刺や事務書類などを作っていた。ところが、“名刺交換はオンラインで”といったCMが放送されるような状況になり、月に400件近くあった名刺作成の依頼は9件にまで急減。このままでは倒産するという状況でした」
死活問題に陥っていたアサヒ印刷は、経済産業省のものづくり補助金を申請し、その補助で紙以外にも印刷できるUVインクのプリンターとレーザー加工機を導入した。
「アクリルに印刷でき、なめらかにカットできる機器を用意したはいいものの、何を作ればいいのか暗中模索でした。そうした最中に、イトーヨーカドー弘前店さまから相談をいただき、ご当地カプセルトイが話題を呼んでいるという話になったんです」
イトーヨーカドー弘前店の売り場のスタッフを交え、作り手のプロダクトアウトな目線ではなく、生活者の視点になって熟考。そうして生まれたのが、『玉子とうふ』『スタミナ源たれ』などの有名県産品をモチーフにした『青森のたんげ、めぇアクリルキーホルダー』だ。青森県民以外は「?」にならざるをえないラインナップだが、今では青森から離れて暮らす子どもに親が仕送りをする際、このキーホルダーを一緒に入れて送る─いわば、“お守り”のような存在になっているそう。
設置場所はイトーヨーカドー弘前店のみにもかかわらず、スマッシュヒット。12月からは第2弾の販売も始まった。「ようやくコロナ前の業績まで戻りつつある」と藤田さんが話すように、ご当地カプセルトイは、町の印刷会社を回復させる救世主でもあった。